今田 知代 今田農場
サツマイモを北海道の特産に。未来への期待をのせた新食感の「ゆきこまち」
近年、スーパーや道の駅の店頭で目にする機会が増えてきた北海道産のサツマイモ。九州や関東、四国などが主な産地として知られていますが、気候の変化や栽培技術の向上を背景に、北海道でも作付けが広がっています。かつては北海道の気候では栽培が難しいとされてきましたが、今ではニンニクや落花生とともに、北海道の「新顔作物」の一つに選定され、新たな特産品として期待が寄せられています。10月28日(水)〜11月10日(火)に地下1階で開催される『ディスカバリー北海道』では、黒松内町の今田農場で育ったサツマイモ「ゆきこまち」に注目。生産から加工、販売までを道内で完結させるサプライチェーンの構築を目指す、ノーステック財団主宰の「さつまいも北海道プロジェクト」とタッグを組み、2024年に品種登録された新品種「ゆきこまち」をはじめ、「ゆきこまち」を原料にした惣菜やスイーツをご紹介します。最大の魅力は、口溶けのよさ。焼き芋にすると、雪のようにはかなく溶ける、上品な口当たりに魅了されます!今回は、「ディスカバリー北海道」に登場する「ゆきこまち」の生産者、黒松内町にある今田農場の今田知代さんに話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 梅村樹李
今田 知代 いまだ ともよ2>
今田農場 野菜担当
岩見沢市生まれ、57歳。ノーステック財団主宰の「さつまいも北海道プロジェクト」生産者メンバー。北海道大学経済学部卒業後、東京・札幌で会社員として働き、山形県から黒松内町に入植した農家の4代目であるご主人と結婚し、34歳から農業に従事。ジャガイモの種芋生産を軸に、小麦や黒大豆、ブロッコリー、スイートコーン、サツマイモなどを栽培している。2026年には、ノーステック財団とともに今田農場産「ゆきこまち」を使った焼き芋ペーストを開発。
子どもたちのおやつとして
17年前に始めたサツマイモ栽培
「掘りたてのサツマイモは、赤ちゃんのお尻みたいにプリッとしていて、とてもきれいなピンク色です。このかわいらしさが、サツマイモをつくるきっかけにもなっているんです」
そう話しながら、取材班のためにひと畝分だけ収穫せずに残しておいてくれたサツマイモを、目の前で掘り起こしてくれた今田農場の今田知代さん。「作物なのにお尻なんて言っちゃだめかしら」と言葉を探しつつ掘り出してくれたのは、2024年に品種登録された「ゆきこまち」です。
しっとりとした深みのあるピンク色は、皮が空気に触れ、乾燥するまでのつかの間だけ楽しめる美しさ。土から出てきたばかりのサツマイモは、ホカホカと湯気が立ちのぼりそうなほどみずみずしく、「かわいい」という言葉がぴったりの姿!
取材班が「さつまいも北海道プロジェクト」を主宰するノーステック財団の菊地哲さん、桂綾香さんとともに、今田農場の畑を訪ねたのは10月上旬。約2万3,000株が植えられたサツマイモ畑は、すでに半分ほどの収穫が終わり、秋の気配が深まっていました。
かつては寒冷な北海道での栽培が難しいとされてきたサツマイモですが、気候の温暖化や栽培技術の向上を背景に、道内でも生産が拡大。北海道産サツマイモの収穫量は、2011年の309トンから2023年には1,870トンへと大幅に増加しています。今田さんがサツマイモを育て始めたのは、2009年のこと。まだ夏の暑さを今ほど感じなかった頃だといいます。
「今は大学生になった2人の息子が小さかった頃、おやつ用に10本の苗を植えたのが始まりでした。今ではすっかり、サツマイモLOVE! 息子たちが中学生か高校生の頃に、『お母さんは、俺たちよりサツマイモのほうが大事だよね』と言われてしまったこともありました。とても手がかかる作物ですが、手をかけた分だけおいしくなる。子どもより大事だったわけではありませんが、気づけば情熱を注ぐ作物になっていました」
今田農場の主軸は、種芋用のジャガイモ栽培です。作付けから収穫までの工程の多くを機械化しているジャガイモに対し、サツマイモ栽培は手作業が中心。今田さんが「手がかかる」と話す理由は、栽培から貯蔵までの工程にありました。
栽培から貯蔵まで手をかけた分だけ
おいしさで応えてくれるサツマイモ
「畝を覆う黒い農業用シート『マルチ』に穴を開け、土にサツマイモの苗づるを刺すようにして植えるのが、5月中旬から6月上旬です。黒松内は風が強い地域なので、苗が風で擦れたり、夜間の冷気に当たって枯れたりしないように、『パオパオ』と呼ばれる農業用の不織布をかぶせて保温しなければなりません。サツマイモが育つ時期の大事な作業は、地味だけれど草取りなんです。農業は雑草との戦い。雑草があると虫が寄ってきて作物を食べてしまうし、太陽の光も遮られてしまうから」
トラクターで掘り起こしたサツマイモは、1株に数本が連なった状態で収穫されます。30℃程度に保温されたハウスに運び入れ、ツルや根とともにイモの両端を一本ずつハサミで切り落としてから、一定期間寝かせる簡易キュアリング処理を施します。
キュアリング処理とは、収穫時についた小さな傷を、サツマイモ自身の力でかさぶたをつくるように修復させる処理のこと。約10日間置いた後に洗浄機で洗い、暖房を使って15℃程度を維持し、水をまいて湿度を80%程度に保ちながら、貯蔵庫で追熟させて出荷に備えます。
北海道の農業といえば、機械化された大規模農業を想像しがちですが、サツマイモの生産には細やかな手作業が欠かせません。虫食い以外にはほとんど傷のない今田農場のサツマイモを見ると、一つひとつがどれほど丁寧に扱われているかが伝わってきます。
「自然と向き合う農業は、私に合っていると感じます。豊作も凶作も、農業には本当にいろんなことがありますが、自然の中で“生かされている”と思えるんです。“生きている”じゃなくて、“生かされている”って。大変だからこそおもしろいですし、『おいしかったからまた買いに来たよ』と言ってくださるお客さまの言葉が、なにより大きな励み。つくった先に、食べてくれる人がいる。売ってくれる人や売るための企画をしてくれる人がいる。そのつながりが『さつまいも北海道プロジェクト』で感じられるんです。経済活動の一員として、歯車のなかに入れたかなって思えるようになりました」
生産から販売までのつながりをつくる
「さつまいも北海道プロジェクト」
「私たちは、北海道産のサツマイモを起点に、経済を循環させる仕組みの構築を目指しています。そのためにまず必要なのは、北海道が産地になること。そして、生産者の方にとって大切な販路と、儲かる仕組みをつくることだと思っています」
そう話すのは、「さつまいも北海道プロジェクト」を主宰するノーステック財団の菊地さんと桂さんです。
例えば、今田農場の「ゆきこまち」を原料とした焼き芋ペーストを製品化し、地元のパティシエとコラボレーションしたオリジナルスイーツに活用したり、サツマイモのお菓子で知られる洋菓子店に「ゆきこまち」の使用を提案したり。また、イカの水揚げ減少により稼働率が低下していた函館の企業から相談を受け、茨城の専門事業者を紹介。技術やノウハウの修得を通じて、干し芋づくりへの新たなチャレンジを支援するなど、菊地さんと桂さんは、生産者と加工・流通に携わる人々をつなぐ橋渡し役を担っています。
「さつまいも北海道プロジェクト」の設立時から生産者メンバーの一人として参加している今田さんが、今、力を入れているのが、先ほど見せてもらった「ゆきこまち」です。今田農場では、これまで10種類を超えるサツマイモを栽培してきましたが、3年前から「ゆきこまち」の栽培を始め、作付面積を増やしているのだとか。
「ホクホク系のサツマイモでは、『紅あずま』という品種が有名です。しかし、高温や病気に弱い特性があり、本州での作付けは縮小傾向にあります。同じホクホク系の『ゆきこまち』を北海道産サツマイモとして売り出していけば、本州産との差別化が図れるのではないかと考えているんです」と菊地さん。
寒さに強く、収量も多い「ゆきこまち」を、北海道産サツマイモの代表品種へ。そんな未来を描きながら、生産者である今田さんと力を合わせ、より多くの消費者に届ける道筋を探っています。
サツマイモを北海道の特産品に
今は未来へつなげる土台づくりの時期
「ゆきこまち」の焼き芋を食べてみると……。
驚くのは、裏ごししたかのような口溶けのよさと上品な甘さ。和三盆のようにさらさらとはかなく崩れる食感と、和菓子のような繊細な味わいが楽しめます。これは、新食感!
「北海道はかつて、お米が育たない土地だと言われていました。でも今は、日本を代表するおいしいお米の産地です。ですから、いつか『北海道のサツマイモっておいしいね』と言われる時代がきてほしい。品種改良も進むでしょうし、さらに気候が変化するかもしれません。だから今は、北海道のサツマイモを未来につなげる時期。生産する人、『ディスカバリー北海道』のような企画をつくる人、食べていただく人たちみんなで盛り上げながら、栽培する人が増え、いつかサツマイモが北海道の特産品といえる時代がきたらうれしいです」
今田さんが描く未来は、「さつまいも北海道プロジェクト」を運営する菊地さんや桂さんたちの夢でもあります。ポイント、北海道に暮らす私たちにとっても、肌で感じる気候の変化に適応し、新たな産業を育てていくことは決して他人ごとではありません。
『ディスカバリー北海道』では、今田農場産の「ゆきこまち」を販売するほか、「ゆきこまち」でつくる惣菜やスイーツをご紹介します。ぜひこの機会に、これまでにない新食感をお楽しみください。
※本記事の情報は、2026年10月のものです。
今田農場
住所:〒048-0125 北海道寿都郡黒松内町字目名5-5



















































