百花の人
022

たちばな ゆう アーティスト

絵とお香にのせたやさしさで、ほっと心をゆるませる

百花POINT

絵の創作とお香づくりという、2つの軸で活動されている橘結さん。大丸札幌店の催事では、心に寄り添う優しい絵やお香を通して、訪れる人を癒やしてくれています。オンラインストアやイベント、大丸札幌店の催事でもお馴染みの橘さんの作品が、10月8日(月)〜14日(火)の「20s 〜北海道の未来をつなぐ〜」にやってきます。今回は、今まで以上の面積にパワーアップ!お家時間が長くなる冬を前に、皆さんも部屋を明るく彩ってくれる絵や、気分の切り替えにぴったりのお香を迎えてみませんか?今回は、絵とお香づくりの活動に取り組むようになったきっかけや、作品に込めている思いをお聞きするために、結さんが活動拠点にされているアトリエを訪ねました。

取材者:大丸札幌店 澤田創太

PROFILE

橘 結 たちばな ゆう

アーティスト

札幌出身、24歳。YⓊ_tachibana 名義で、絵描き、香を作る人として創作活動に取り組む。北海道芸術デザイン専門学校 環境デザイン学科 インテリアデザイン専攻卒業後、設計事務所に就職して2級建築士の資格を取得。海外旅行を転機に、アーティスト活動の道へ進み、オンライン販売のほか、イベントやマルシェでの販売、お香づくりのワークショップなどに取り組む。

建築の道からの方向転換は
海外旅行がきっかけに

その場に出かけたことはないのに、なぜか懐かしさが感じられる絵。漂う香りに、気持ちがすーっと落ち着くお香の香り。橘結さんは、YⓊ_tachibana(ユータチバナ)名義で絵とお香の創作活動に取り組むアーティストです。作品と対面すると2つには共通の世界観があると感じられますが、ちょっぴり意外とも思える不思議な組み合わせ。そこには、一歩踏み出した先での出会いが大きく影響しているそうです。

2級建築士として働いていた設計事務所を辞め、自分が建築でできることを探そうと踏み出した先は海外。2022年10月、建築を見るために出かけたデンマークの旅は、初海外となるひとり旅でした。翌2023年4月には、英語を学ぶために3カ月の予定でオーストラリアのタスマニア、シドニーを旅します。たくさんの出会いに恵まれながら、中でもその後の人生を左右するほど大きな影響を受けたのはオーストラリアでした。

昔から絵を描くことが大好きだったという結さん。いつも持ち歩くスケッチブックには、日記や手帳の代わりに、出合った景色のスケッチや、頭の中で考えていることが描かれています。「言語化するより絵を描いてしまうタイプ。頭の中に見えていることを、絵に描いてしまうんです」と話しながら見せてくれたスケッチブックには、頭と心の内を描いた絵から友人から頼まれたキャラクターの下絵、思いついたことまでが日にちと共に記録されていました。

「小学生の頃からオーストラリアに住んでいるという、女性アーティストの方と出会いました。彼女自身が、絵や服、造形や踊り、演出まで、あらゆるモノや空間を生み出すアーティストで、『Youth Arts And Recreation』という若者たちのアートコミュニティに入れてもらったり、家に住まわせてもらったりしながら、さまざまな創作活動をするアーティストたちと出会ったんです」

さらにオーストラリアで気づいたのは環境問題意識の高さ。袋詰めせずに、グラム売りされているスーパーのオーガニック野菜。生産者から直接買って、幸せな気持ちと共に持ち帰ることができたマルシェ。18歳の頃から環境問題に興味があった結さんは、生活の中に環境意識が根付いている社会への興味から、本当に建築がやりたいことだったのか心に問いかけるようになったそうです。

さまざまな個性を持つ人たちとの出会いを通して、自分自身の生き方そのものを見つめ直した結さんは、今の自分だから出来ることで人に喜んでもらえるように、帰国後にコーヒーとスイーツを売るお母さまのキッチンカー「LARMES COFFEE (ラルムズコーヒー) 」と共にマルシェを開くことを心に決めます。

お客さまの存在が
作品づくりの原動力に

絵を描くのが好きだった結さんが、最初にマルシェで販売したのは、海辺で拾ってきた石に絵を描いたオブジェやポストカードに直接描いた原画です。

「当時はクリエイターになりかけだったので、作ったものを販売をすることに抵抗がありました。でも、作品を買ってくれる知り合いの温かさが身に染みて、こんな自分に対価を払ってくれる人がいるなら、もっとがんばらなければと思うようになりました」

お香づくりは、タスマニア在住の中国人の友人から教えてもらいました。人工的な香料や着色料は使わずに、粉末にした香木やハーブ、スパイスから作る自然の香りが特徴。一日600本近く作ることもあると聞き、澤田は「こんなに繊細な手仕事から一本一本が作られているのですね」と驚いていました。

お客さまに背中を押されるようにマルシェに参加していたある日、大丸札幌店が北海道のクリエイターを応援する物販企画「SaTeMa サツエキテシゴトマルシェ」の募集告知を見つけてくれたそうです。

「応募すると審査に受かり、百貨店で出すクオリティーの商品を作らなければという責任を感じるようになりました。何度も呼んでいただくうちに、いろんなクリエイターさんと出会い、皆の作品からアイデアも広がりました。母のキッチンカーを訪れたお客さまが私の作品を購入してくれる機会などもあり、だんだんとお客さまが増えていきました」

石に描いた絵からキャンバスに描いた作品へと作風の幅も広がり、オーストラリアで知り合った中国人の友人から教わった香木やハーブ、スパイスなどの自然素材で作るお香を、「香ノ結ビ」のブランド名で販売するように。自分が出来ることを探し、広げていった先に今の活動があります。

「SaTeMa サツエキテシゴトマルシェ」は、北海道のものづくりと、北海道のクリエイターを応援したいという思いから生まれた企画です。もしもこの場が、クリエイター同士の縁を繋ぎ、作品そのものがバージョンアップしていくきっかけになっていたのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。

「香ノ結ビ 遥-Haruka-」は、シナモン、クローブ、白檀などを配合。材料は京都の香木屋さんなどから仕入れ。20種類のオリジナルレシピの中から、現在販売しているのは8種類。お香づくりの場には、ブラックペッパーやカルダモンなど、調味料として馴染み深いスパイスが並びます。

やりたいことがあるなら今!
家族3人が個人事業主に

アーティスト名のYⓊ_tachibanaのYⓊに込められているのは家族への思い。

「YⓊで、家族の名前に入っている音の「ユウ」と「ヨウ」を表現しています。思い入れがあるのは、最初に描いた作品「アラタニ」。家族とともに、朝もあれば昼もあって晩がある、そしてお天気もあれば曇りや雨もあるよねというイメージで描いた作品です」

キッチンカーを入れてマルシェを開催しているアトリエ空間は、かつておじいさまが経営していた会社だったそうです。キッチンカーは、おじいさまが愛用していたキャンピングカーを活用。2021年にお亡くなりになったおじいさまは、ご家族にとって大きな存在です。

「やりたいことがあるなら今やらないと。そう思うようになって、長く勤めていた福祉の仕事を辞めて、いつかやりたいと思っていたコーヒーの店を開くことにしました。キッチンカーが流行りだした頃に父の車が私のところにやってきたので、この車でやろうと決めて店を始めたのが2023年1月。アドバイスをくれる娘や息子とは、互いに高め合える関係だと感じています」と教えてくれたのは、お母さまの洋子さん。トップバッターで個人事業主になったお母さまに背中を押されるようにして、結さんも、お兄さまの優太さんも個人事業主の道へ。取り組んでいることは別々でも、時には3人が集まってPOP-UPストアをやることもあるそうです。

洋子さんはコーヒーやスイーツを販売するキッチンカー「LARMES COFFEE (ラルムズコーヒー) 」を主宰。優太さんは主にスノーボード撮影をメインとするカメラマンというクリエイターファミリー。

「絵やお香を通してお届けしたいのは、心がほっとする時間です。忙しい世の中で、皆が優しいものや、癒やしてくれるものを求めていると思うから。心が安らぐような絵や、リラックスできるお香を作っていきたいです」と話す結さんは、すでに次のステージを思い描いています。

「絵とお香を融合させて、インスタレーションのような空間展示を実現したいと考えていて。『100のやりたいことリスト』にも書いてあるんです。そして、絵の展示や、お香の量り売りができるように、いつかこのアトリエをギャラリーにするつもりです」

「20s 〜北海道の未来をつなぐ〜」には、優しい色づかいの絵画作品や天然素材で作るお香が登場します。ぜひ皆さんも、結さんの優しい世界に癒やされてください。

「見た景色が心から通り抜けなければ絵になるけれど、通り抜けていったらその景色は生活になる」と結さん。どの作品も見た景色をそのまま描くのではなく、その時に湧き上がった感情や、その時感じた香りとともに、一度、心で受け止めて描かれているから、見る人の感情が動かされるのかもしれません。

※本記事の情報は、2025年9月のものです。

Events

20s 〜北海道の未来をつなぐ〜

《大丸百花祭》
20s 〜北海道の未来をつなぐ〜

開催期間:10月8日(月)〜14日(火)
場所:大丸札幌店 7階ライフスタイル雑貨売場

焼き菓子やアートなど、多彩なジャンルで活躍する20代の作り手たちにフォーカスし、お客様に「知ってもらい」「応援してもらう」きっかけを。この1週間が、作り手とお客様をつなぐ「出会いの場」 。

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企画取材:澤田創太 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘