荒川 雄生・桜 ボクツメ
実店舗を持たずにふたりで生み出すまるで料理のようなパン
札幌店の催事にこれまで何度も出店いただいているボクツメさんは、実店舗を持たないパン屋さんです。パンを焼くのはご主人の荒川雄生さん、商品開発のアイデアやSNSの発信などを担うのは奥さまの桜さんです。サンマと柿とキャラメル、ツナマヨとワサビ……。意外な組み合わせでありながら、ひと口食べるだけで心掴まれてしまう味わいと、食感の重なりが楽しいボクツメさんのパンは、いわゆるお総菜パンというよりも料理のようなパンなんです。ボクツメのパンとお酒を買って帰れば、それだけでご機嫌な時間に!ここで興味を持ってくださった皆さんに朗報です。ボクツメさんのパンが、2026年1〜2月にかけて大丸札幌店3階キキヨコチョで開催される『キキマーケット~日替わり・週替わりでくるくる変わるお楽しみ~』にやってきます。故郷・十勝の食材をふんだんに使い、実店舗を持たないパン屋として2024年にスタートした27歳の荒川さん夫妻に、二人三脚で始めたパンづくりについて話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 梅村樹李
荒川 雄生 あらかわ ゆうき2>
ボクツメ パン製造担当
27歳。帯広市出身。酪農学園大学附属とわの森三愛高校フードクリエイトコース卒業後、光塩学園調理製菓専門学校製菓技術専攻科、夜間部調理科卒業。札幌・円山のドイツパン店『ブルクベーカリー』で経験を積み、2024年に桜さんと結婚。同年に、ふたりで実店舗を構えないパン屋『ボクツメ』を開業。
荒川 桜 あらかわ さくら2>
ボクツメ 商品企画・経営、その他全般担当
27歳。群馬県高崎市出身。小学校4年生の時に余市町へ移住。光塩学園調理製菓専門学校製菓衛生師科卒業後、札幌・円山のカフェ『JETSET(ジェットセット)』の店長として経験を積み、2024年から現職。
すべて手ごねで仕上げるからこそ生まれる
もっちりとした弾力
もっちりと弾力のあるパンに挟まれているのは、鶏モモ肉のポルケッタ。やわらかな鶏肉とシャキッとした小松菜、ゴロゴロとしたタマネギの食感に、ニンニクや大葉の香りが重なる「鶏もも肉の和風ポルケッタサンド」は、ひと口目から印象に残る一品です。
しっかりとしたトマトの酸味がアクセントになる「マルゲリータ」や、サクサクとしたリンゴの食感が残る「アップルシナモン」。ボクツメのパンをほお張ると、次々と現れる食感や香りに驚かされます。一口ごとに変わる味わいは、まるで料理を味わっているかのよう。お酒との相性も抜群です。
ボクツメは、荒川雄生さんと桜さん夫妻が切り盛りする、実店舗を持たないパン屋です。大丸札幌店をはじめとした商業施設の催事に出店するほか、飲食店を借りてパンと料理を提供する“パンビストロ”などを行うことも。お客さまの来店を待つのではなく、お客さまの元へ出向き、その場に集まる人に喜んでもらえそうなパンを直接届けるスタイルの営業をしています。
店を構えていないため、雄生さんがパンを作るのは真夜中。知り合いの店の厨房を借りて、翌朝から売る分を夜通しかけて焼き続けます。
「ボクツメの特徴でもある、もっちりとした弾力のある食感は、主軸で使っている十勝産ブレンド強力粉『ユメミルうさぎ』の小麦の特性もありますが、キッチンを借りて作ることにも理由があります」と教えてくれたのは、新商品の開発アイデアを担当する桜さん。
一般的なパン屋では欠かせない“こね機”がない環境で、安定したパンを作るために行き着いたのが、混ぜるだけで仕込める高加水のフォカッチャ生地と、小麦粉の一部に熱湯を加えて糊化させる湯種製法の生地。この2種類を軸に、すべて手ごねで仕上げる力仕事から生まれるパンは、小麦の甘みが強く、ひと口噛んでも、包丁で切っても、元の厚さに戻るほどもっちりとした弾力があります。
「こね機がなくても作れるようにと考えたパンでしたが、お客さまが喜んでくださり、いつしか店の顔となってお仕事をいただけていることを実感しています」。そう桜さんが話すとおり、ボクツメを象徴するパンの味わいは、意外にも限られた条件の中から生まれたものでした。
パンづくりも調理も。
昼夜で学んだ専門学校時代
ところで、ボクツメの開業は2024年。それは、おふたりが結婚した年でもあります。荒川さん夫妻は専門学校の同級生。雄生さんはパンづくりと調理を、桜さんはお菓子づくりを学んだそうです。
「思えば、パン屋になりたいと思ったのは保育園の頃から。高校進学を考えた時、ほかにやりたいことが見つからなくて、『やっぱりパン屋になろう』と決めました」。そう話す雄生さんは、食と農、栽培から調理・加工、流通、販売までを総合的に学ぶ高校へ進学。その後、パン製造の技術を身につけるために専門学校へと進みました。
「学生のうちはアルバイトをしなくていいから、とことん学びなさい」という親の後押しもあり、同学年でただ一人だけ、昼はパン製造、夜間に調理を学んだ学生時代。「カスタードは炊けないけれど、ステーキは焼ける」と笑うこの経験が、「一皿の料理のようなパン」というボクツメの原点へとつながっています。
一方、「保育園の頃からケーキ屋さんになりたかった」と話すのは桜さん。専門学校で製菓を学び、卒業後はカフェに就職。店長として切り盛りしながら、店舗運営の経験を積みました。
専門学校卒業後に桜さんが勤めていたカフェと、雄生さんが働くドイツパンの店が取引先だったことを縁に、ふたりは2024年に結婚。新しく何かを始めようと考えた時に、パン製造と向き合い続けてきた雄生さんの技術と店を運営してきた桜さんの経験を生かしてパン屋を開店することに。まずは身の丈に合った形でスタートするために、実店舗は持たないことに決めたそうです。
「自分も妻もお酒が好きなので、お酒と一緒に楽しめるパンを作りたいと思いました」と雄生さんは振り返ります。
「日常に、少しの贅沢を」。ふたりが目指しているのは、ほんの少しだけ贅沢でも、お酒と一緒に味わって「明日もがんばろう!」と思えるようなパン。師匠と仰ぐイタリアンのシェフをはじめ、料理の世界で活躍する先輩たちから刺激を受けながら、「一皿の料理、スイーツのようなパン」を思い描いてボクツメの味を生み出しています。
夢はおいしいパンと料理を楽しんでもらえる
ビストロのような店
「卵かけご飯は、醤油を混ぜないで食べる派です。醤油がしっかり効いているところもあれば、卵そのものを味わえる部分もある。そのグラデーションが好きだから」。そう話す雄生さんの感覚は、ボクツメのパンづくりにも通じています。
一つのパン全体に味を均一に馴染ませるのではなく、ソースを塗る際に濃淡をつけたり、具材をゴロゴロと大きめにカットしたり。ほお張るごとに変わる食感や味わいは、料理を思わせる理由のひとつです。
ちなみに、食感のアクセントに使われることの多いナッツが見当たらないのは、桜さんが苦手な食材だから。世に出すパンの味を決めるのは、桜さんの「おいしい!」に委ねられています。
大丸札幌店との縁は、今から約1年半前。当時は“はじめまして”だったお客さまは、出店のたびに足を運んでくれる常連さんとなり、応援してくれていることを実感する日々だとか。
「大丸札幌店のお客さまは、催事をきっかけに常連になってくださった方ばかり。Instagramに、『返信は要りませんよ』とのお気遣いから始まるパンの感想メッセージを送ってくださったり、具材のリクエストをくださったり!」
青カビチーズやイチジクといった、捻りのあるリクエストの具材から、「ボクツメのパンを理解してくださっていることが感じられてうれしいです」と桜さん。
ふたりの夢は、いつか自分たちの店を構えること。
「パンをいちばんおいしい状態で提供できて、料理やおいしいお酒と一緒に楽しんでもらえる、ビストロのような店を持ちたいです。パンをテイクアウトで販売したり、催事にも出たりしてお客さまにも会いに行けたら」
2026年2月は、ボクツメのパンを味わえるチャンス。延べ7日間、荒川さん夫妻が3階キキヨコチョでパンを販売してくださいます。気になるパンを選んだら、ぜひ、おいしいお酒を買うことも忘れないでくださいね!
※本記事の情報は、2026年1月のものです。

































