百花の人
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日名地ひなじ 博花ひろか Cado

畑から食卓へ 安心とおいしさを届ける お母さんのサンドイッチ

百花POINT

“農薬を使わずに育てた、採れたて野菜のサンドイッチ”。思わず口いっぱいに頬張りたくなるサンドイッチを作っているのは、Cadoを営む日名地博花さんです。自分で育てた野菜が主役のサンドイッチを通してお客さまの食卓へ安心とおいしさを届ける、まさに「Farm to Table(畑から食卓へ)」の実践者。そんなCadoが、2025年7月9日(水) 〜 22日(火)に開催される『SaTeMa vol.5(サツエキテシゴトマルシェ)』の期間中、9日(水)、13日(日)、21日(月・祝) に初出店してくださることになりました!私たち百貨店にとって、安心と安全はなにより大切な価値そのもの。そして、未経験だった農業の世界に一歩踏み出した日名地さんの行動力は見習うべき姿勢そのもの!野菜から育てるサンドイッチ屋さんであり、2人の子どもを育てるお母さんでもある日名地さんの畑を訪ね、お店を始めた思いをお聞きしました。

取材者:大丸札幌店 藤尾智美

PROFILE

日名地 博花 ひなじ ひろか

Cado

Cado店主。独身時代は車販売店で受付業務を担当。22歳で結婚後、子育てをしながらカフェやパン屋、ソフトクリーム店などで働く。2024年5月から農業に取り組む義母の畑を借りて、農薬不使用の野菜づくりをスタートし、マルシェやカフェなどのイベント時や間借りカフェにて育てた野菜が主役の手づくりサンドイッチを販売。5歳と2歳のふたりの子どもを育てる4人家族のお母さんとしても奮闘中の28歳。

主役は農薬を使わずに育てた野菜
作り手の顔がわかるサンドイッチ

私たちが石狩市の畑を訪ねたのは6月中旬。ヒバリの声が響く日名地さんの畑では、小さな豆のツルが風に揺れ、ジャガイモの葉の間に白い産毛で覆われた小さな花芽が見られました。広さは大型バス2台分ほど。この畑で、日名地さんは農薬や機械を使わずに、鍬一本の手作業で野菜づくりに取り組んでいます。

「義理の母が農業をしており、子どもたちを連れて畑へ遊びに行くようになりました。自然の中でのびのびと遊び、自分で収穫した野菜をおいしそうに食べる子どもたちの姿を見て、食べることと育てることはつながっていて、農業は命をいただく食育そのものだと感じたんです」と、畑に興味を持ったきっかけを日名地さんはふり返ります。

野菜を育てながら子どもと一緒に学びたいと思うようになった日名地さんは、野菜づくりに取り組みたいという思いをお義母さまに伝えます。子育て中であり、休みがない畑の仕事への挑戦を心配しながらも、お義母さまご自身も異業種から農業に飛び込んだ経歴の持ち主。「種まきの5月を逃すと、一年後になっちゃうよ」という言葉で背中を押してくれたこともあり、2024年5月から野菜づくりを教わるようになりました。

土の中で育ったジャガイモが地上に露出しないように、鍬で土寄せをしてしっかりと埋めます。

「農薬を使わずに育てているので、今は実のなる野菜が中心です。ネットやマルチシートをかけて虫よけ対策をしますが、どうしても葉っぱは食べられてしまうんです」

農業1年目は、ほうれん草や小松菜などの葉物野菜にも挑戦しましたが、2年目の今年はトマト、ピーマン、豆、ズッキーニ、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャのように、葉が食べられても収穫可能な、実のなる野菜に絞って育てることにしたそうです。

夏の作業は、毎日9時頃から3時間ほど。勢いよく生える雑草を抜き、用水路からペットボトルで汲んできた水を撒き、ジャガイモが日に当たらないように畝の土寄せといった季節の作業を行います。収穫の季節になると、契約したレンタルキッチンで採ったばかりの野菜をサンドイッチにして、マルシェやカフェの催事で販売。時には採れたて野菜を一緒に販売することもあるのだとか!

肥料は、堆肥、石灰、家庭菜園用肥料を使用しています。雨が降ると水まきの必要がないので、「恵の雨がうれしいと感じられるようになりました」と笑う日名地さん。

一歩踏み出した先の出会いが
自分の背中を押してくれた

高校時代からカフェめぐりが大好きだったという日名地さん。理想の店を想像しながら、メニューの絵を描いたり、価格を決めたり、照明などの内装を考えたりしていたそうです。車販売の会社に就職して日々の仕事と向き合ううちに、いつか店を持ちたいという憧れは萎み気味に……。結婚出産を機に仕事を辞め、子育てしながらパート勤務を始めるタイミングで昔の思いがよみがえり、将来に向けた勉強もかねて個人経営のカフェで働き始めます。ふたり目の出産をはさみながらも、カフェやパン屋、ソフトクリーム店などで仕事を続けてきた日名地さんは、パート勤務を続けながら農業をスタートします。

「実際に農業に取り組むと、思い描いた理想のスローライフのようにはいかないこともたくさんありました。サンドイッチを売ることにしたのは、思えば “自分を動かすための手段”だったのかもしれません。作った野菜を主役にして、店舗を構えなくてもイベントなどで売れるモノ、自分でも始められるモノを考えたんです」

食感の組み合わせや色あい、味の重なりを考えながら調理した野菜を、きめ細かで柔らかい食感と甘い香りが魅力の『おかめや』製の食パンではさみます。

実際にお会いすると、華奢な体のどこにこんなにも大きなエネルギーがあるのかと驚きます。野菜づくりにしてもサンドイッチづくりにしても、家族や友人に公言し、あと戻りできない状況をつくっていくのだとか!

日名地さんの魅力は、「自分ができることから始める」軽やかな行動力。背伸びしすぎず、最初にすべてを決めすぎず、全部は無理でもやれることから取り組んで、家族や周囲の力も借りつつ、まずは一歩前に進むこと。一歩ずつ進んだ先での人との出会いが、さまざまな形で背中を押してくれたそうです。

『SaTeMa vol.5』で販売する予定の「マスタードチキンとラペ」(手前)、「スパムとポテト」(奥)

子どもと家族の団らんの場に
そっと寄り添う存在になりたい

「わからないことばかりの中で出向いた保健所ではアドバイスをいただけましたし、ショップカードのイラストをお願いしたケーキ店の奥さまも背中を押してくれました。知名度やSNSのフォロワーがいない中でイベントに出店しても、他店の方は野菜の価値を認めて応援してくださって。組織に属さずひとりで活動しているはずなのに、不思議とつながりを感じています」

勇気を出した先で出会ったのは、自身もかつて同じように行動を起こした仲間たちとの出会い。マルシェやカフェのイベント出店をきっかけに、人との縁や出店機会が広がりました。

野菜の味が主役になるよう、砂糖や酢、マヨネーズやカレー粉などの調味料づかいは極力シンプルに。子どもでもパクッと口にしやすいサイズ感も、子どもを意識したサンドイッチならでは。子育て中の方も安心して、家族一緒に採れたて野菜を味わえることがCadoのサンドイッチの魅力です。

「5歳の息子に『お母さんの仕事は何だと思う?』と訊ねると、『サンドイッチ屋さん!』と答えてくれるようになりました。保育園にお弁当を持参する日には『サンドイッチにして』と言ってもらえることがうれしいです」

「野菜は素材勝負の食材です。お客さまが自分で作った野菜のサンドイッチが『おいしかった』と、再び足を運んでくださることは光栄ですし、なにより大きな励みになります。家族で楽しむ時間に寄り添う存在になれたらうれしいです」と、日名地さんはサンドイッチに込めた思いを教えてくれました。

野菜づくり2年目を迎えた2025年は、キッチン工房を建設予定。いずれは野菜を使ったデリやお弁当づくりにも挑戦できるよう、次のステップへ向かって準備を進めているそうです。

7月の『SaTeMa vol.5(サツエキテシゴトマルシェ)』には、日名地さんが来場してくださるので、お楽しみに!みなさんも、北海道の初夏の旬をサンドイッチで味わってくださいね。

「大丸札幌店のお客さまは、食の安心や安全を大切にされていると感じます。まさにcadoさんのサンドイッチは、食材の育ち方までわかることが大きな価値ですね」と、日名地さんと同じくふたりの子どもを育てる母でもある藤尾は目を輝かせます。

※本記事の情報は、2025年6月のものです。

Events

SaTeMa vol.5(サツエキテシゴトマルシェ)

SaTeMa vol.5(サツエキテシゴトマルシェ)

開催期間:2025年7月9日(水)〜22日(火)
Cado出展日:7月9日(水)、13日(日)、21日(月・祝)
場所:7階 ライフスタイル雑貨売場

北海道のものづくりと、北海道のクリエイターを、応援したいという思いから生まれたイベントです。

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企画取材:藤尾智美 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘