
宮本 翼 PIZZERIA DEL CAPITANO
目指すのは一人ひとりに寄り添うピッツァ
これまでも、大丸札幌店でおいしい冷凍ピッツァなどを販売してくださった「PIZZERIA DEL CAPITANO(ピッツェリア デル カピターノ)」。オーナーである宮本翼さんは、噛むほどに小麦の風味が広がるピッツァを手作りする職人さんです。催事では、高校生とコラボレーションしてピッツァを開発し、生徒の皆さんが店頭に立って販売してくれることもありました。「ピッツァは年代を問わずにみんながおいしく食べられる料理。北海道の食材にもよく合います」と宮本さんが話すように、ナポリピッツアァと北海道の食材の相性のよさは抜群。2022年4月にご自身の店をオープンして以来、ピッツァ作り以外にも活動の幅を広げている宮本さんの店を訪ねました。
取材者:大丸札幌店 千葉美奈子
宮本 翼 みやもと つばさ2>
PIZZERIA DEL CAPITANO
江別市出身、41歳。店で焼きたてピッツァを提供するほか、薪窯を積んだキッチンカーで北海道各地のイベントにも出店。ワークショップ、北海道三笠高等学校、酪農学園大学附属とわの森三愛高等学校の特別講師も務める。国際カフェテイスティング協会認定エスプレッソ・イタリアーノ・テイスター。道産素材で作るイタリア菓子を販売する「Pasticceria Spuntino(パスティッチェリア スプンティーノ)」も主宰。第1回ツジ・キカイ チンクエチェントカップ第2位。北海道ふぐ調理師。
ピッツァのおもしろさは
一枚ずつ工夫できること
モチモチっとした生地は噛むほどに小麦の香りが広がり、塩だけで味付けしたトマトソースの旨み、バジルの香りが追いかけるように現れます。ハチミツをかけてコクが増したサツマイモの甘みと、とろけたマスカルポーネが混ざり合う濃厚な味わいを引き立てるのは生地の塩気。「PIZZERIA DEL CAPITANO(ピッツェリア デル カピターノ)」のピッツァを頬張った取材スタッフは、「おいしい!」と思わず顔を見合わせて大喜び!宮本さんが生地から手作りするピッツァは、耳までおいしい、耳こそ味わいたい絶品でした。
「生地に載せるソースやチーズはあえてムラを作ります。最初に食べる中心部分は、トマトソースを多めにしてインパクトを強めに。生地の耳まで飽きずに食べていただけるように、1枚の中に味の変化を作っているんです」と教えてくれた宮本さん。一口ごとに出合う味が変わり、食べ飽きないおいしさにはきちんと理由がありました。

2軒目として来店された方には、ちょっぴり味を濃い目にしたり、アレルギーを持つ人には大豆チーズを使ったり。食べやすいように耳の部分に空気を入れて、軽めに仕上げることもあるのだとか。
「僕が作りたいのは“寄り添うピッツァ”。一人ひとりに合わせた最高のピッツァが理想のピッツァだと思っています。均一の味ではなく、お客さまに合わせた一枚を提供できることが職人としてのおもしろさ。表現が変えられる楽しい食べ物だと思います」と、宮本さんは力を込めます。
ポスターや装飾で陽気に彩られた店内に、さりげなく、ちょっぴり違和感をもって掲げられているのは「北海道ふぐ調理師」の免状です。江別出身の宮本さんは、酪農学園大学附属とわの森三愛高等学校を卒業後、飲食業界で働くようになってから20年近く、焼肉店やダイニング、イタリアンレストラン、ふぐ専門店、ピッツァリアからパンケーキカフェまで、さまざまなジャンルや立場の経験を積んできた経歴の持ち主でもあります。

ナポリを源流にしながらも
作るのは北海道のピッツァ
「人よりも遅い39歳で独立したので、寄り道いっぱいの人生だったと思います。『25歳までは経験を積んで、25歳からお金を貯めて、30歳で独立するぞ!』と思い描いていたけれど、すばらしい先輩方と出会い、やればやるほど自分の足りなさが見えてきて……」
ふぐ調理師やバリスタなど、やったことのない仕事、おもしろそうな仕事を選びながら経験を積む中で、飲食業は天職だと感じていた宮本さんは仕事を通してピッツァと出合います。
「僕は、複数の仕事を同時に進めるのが苦手で不器用。ある時、『ピッツァをこのまま覚えることができなかったら職人にすることはできない』と言われ、半年かけて合格点をもらったことがありました。努力した分だけ終わりがないことも分かったし、苦労した分だけ自信がついた経験になりました」

休日を使ってひたすら焼く練習をしたり、近隣の人に配って食べてもらって反応を見たり、東京や名古屋の店にお願いをして皿洗いをしながら厨房の動きを見たことも。食べ歩きをして学び、30歳の時には2週間ほどイタリアで研修したそうです。ピッツェリアで働く経験を通して、いつしか宮本さんが目指すようになったのは、源流であるナボリピッツァをリスペクトしながらも、北海道で作る軽快なピッツァ。仕事で出会った多くの人との縁を機に、狸小路7丁目に自分の店を構えたのが2022年のことでした。
ソースやチーズに負けない、香り豊かな生地に使われているのは北海道産の小麦。国際規格である「ピッツァナポレターナSTG規格」を国内で初めてクリアした江別製粉の北海道産小麦100%のピッツァ専用粉に、希少品種の北海道産小麦「ハルユタカ」100%の全粒粉をブレンドしています。イタリア原産の調理用トマト、サンマルツァーノトマトを育てる江別の農家「はるちゃんのトマトケチャップ工房」のトマトソースや、江別の「アンビシャスファーム」から取り寄せる季節の野菜、同級生でもある江別の養蜂家「田中養蜂所」のハチミツ、白糠町の「チーズ工房白糠酪恵舎」や札幌の「ファットリアビオ北海道」のチーズまで、宮本さんのピッツアァを彩るのは北海道の季節の恵み。豊かな食材を通して、故郷・江別や北海道の食材の質の高さを再認識しているそうです。

若い世代へ種を撒く活動は
なにより心の栄養となって
「僕は今、41歳。自分の店や自分だけがよい仕事をするのではなく、次世代に繋げることに取り組みたいと思っています。そして日本におけるピッツァ職人の地位を確立したい。地元食材のおいしさや、食の楽しさを子どもたちに知ってもらうために、若い世代へ種を撒く時期だと思っています」と話す宮本さんは、高校生を対象にした食育の講義や、若者と一緒に商品開発をする活動にも力を注いでいます。
「1日6時間通しで授業をしたり、地元食材を使った冷凍ピッツァを開発したり。素直に向き合ってくれる子どもたちが、『おいしい』とか『ありがとう』って言ってくれるのがうれしくて。僕にとってはその言葉が一番の栄養素であり、なによりの宝なんです」

三笠高校の生徒と共同開発した、三笠産のトウモロコシやタマネギ、サツマイモ、ハチミツなどを活用した、各種の『ミカサピッツァ』。間伐されたアカエゾマツのチップで燻製した酪農学園大学のベーコンとクボタアグリフロントで水耕栽培されたバジルのソースを使い、酪農学園大学×クボタアグリフロント×PIZZERIA DEL CAPITANOが産学連携で開発したピッツァ。北海道大学の北大牛乳から作るモッツァレラチーズで作る「北大ピッツァ」など、さまざまな活動の輪は広がり続け、現在は高校生が畑で野菜を収穫することから始めるピッツァ企画も進行中だとか。
生地の上に載せる大地の恵みは、乳製品から野菜、肉、魚、果物まで、北海道と相性はぴったり。「ピッツァを通してできることは無限大」と、前を向く宮本さん。地元食材や産業を結ぶ“北海道ピッツァ”の可能性は、これからますます広がりそうな予感です。

※本記事の情報は、2025年8月のものです。
PIZZERIA DEL CAPITANO(ピッツェリア デル カピターノ)
住所:〒060-0063 北海道札幌市中央区南3条西7丁目6-4 TANUKISQUARE 1F
TEL:011-206-4830
営業時間:16:00〜23:00(土日祝 12時より営業)