
竹内 隆介 トピカ
百貨店内に現れたのは光と緑にあふれる癒やしの中庭
2024年9月に大丸札幌店6階のグリーンパティオをリニューアルしてから、ちょうど一年。吹き抜けから注ぐ自然光と植物の緑がいっぱいの空間に、シラカバ材のイスや樹皮を生かした植木鉢が並ぶ心地よいスペースは、私たちスタッフも大のお気に入り。くつろいでいらっしゃるお客さまをお見かけすると、公園を歩いているような気分になって心癒やされます。お買い物中にひと休みしていただきたいという私たちの希望を空間コーディネートと家具設計で実現してくださったのが、トピカを主宰する建築家の竹内隆介さん。百貨店にとって空間づくりは大切な要素。グリーンパティオや建築へ込めた思いをお聞きしたくて、竹内さんが事務所を構える東川町を訪ねました。
取材者:大丸札幌店 板倉真秀
竹内 隆介 たけうちりゅうすけ2>
トピカ代表
建築家、一級建築士。佐世保市出身、旭川市育ち。48歳。明治大学理工学部建築学科卒業後、同大大学院理工学研究科建築学卒業(香山研究室)。2001〜2009年芦原太郎建築事務所に勤務した後に独立し、2009年に東京でトピカ設立。2015年北海道旭川市へ移転、2024年に東川町に移転。大丸札幌店7階の会員フロア『D’s LOUNGE SAPPORO』の設計協力のほか、2024年には6階『グリーンパティオ』のリニューアル時には空間コーディネートや家具設計を担当。

木漏れ日を感じる
一年中緑の中庭
大丸札幌店6階から8階へ繋がる吹き抜けにあるグリーンパティオは、お買い物中の休憩やお友達との待ち合わせなどにご利用いただける休憩スペース。2024年9月にリニューアルしてから丸一年が経ちました。
「グリーンパティオという名前の空間なら、名前のとおり緑の中庭にしてしまおうと考えました」と話すのは、リニューアル時に空間コーディネートと家具設計を担当してくださった、建築設計事務所トピカ代表の竹内隆介さん。建築家として住宅や飲食店、集合住宅やホテルまで手がける竹内さんに私たちからお願いしたのは、ローカリティー(地域性)と北海道らしさを大切にすることでした。
「お買い物はたくさん歩くので疲れがちです。公園のような空間を作ったら、ひと休みして元気になってから、またお買い物に出かけられるかなと考えました。都市の中には意外と少ない緑の空間を、百貨店が補完することにも意義があると思います」と、プランの意図を教えてくれた竹内さん。

吹き抜けから自然光が注ぐ空間に配置されているのは、『木と暮らしの工房』(東川町)制作の北海道産シラカバ材のイス。その半数ほどが、オリジナルデザインでゼロから考えられたものです。座り心地のよいイスに腰掛けると、木々の葉が周囲からの視線をゆるやかに遮っていることに気づきます。人が集まっているのに落ち着く居心地のよさは、一体どこからきているのでしょうか?
「居心地よい空間には、広さと狭さ、圧縮と開放、囲われた場所と開けた場所といった抑揚が必要だと思っています。それから“行き止まり”を作らないこと。これは公園設計に通じる考え方ですね。また、観葉植物はどうしても南国系になりがちです。シラカバの家具や鉢植えと合うように、葉が小さめのエバーフレッシュやシダを多めに加えつつ、以前からあったベンジャミンの幹のねじりをできるだけ自然な形に戻すように剪定して、北国でも違和感がないようにと考えました」
人の気配があるのに視線が気にならず、南国の観葉植物と北国のシラカバが不思議と馴染み、日当たりの良い広場と木陰がある公園のように感じられる空間には、心地よさを生む理由がありました。

建築家を志すきっかけ
「特別、建築に興味があった訳ではないのですが、漠然と東京の大学に行きたいとの思いがあって進学しました。高校時代にモータースポーツをしていたので、縁のあった明治大学進学後も続けたかったのですが、時間もお金も才能もなく、あっさりと諦めました。その後はアルバイトに精を出し、大学の成績も悪かったので、建築設計に興味を持つことは難しく、自分には向いていないので他のことをやろうと思っていたほどです」

アルバイトに明け暮れていた大学3年次後期、「東京大学を退官された香山壽夫先生がお見えになって授業を受けたことが、自分にとっての大きな転機となりました」と、竹内さんは振り返ります。
「先生は難しい言葉を一切使わずに分かりやすく、写真を見せながら、歴史的な背景や意味を丁寧に教えてくださいました。大学に入って初めて理解ができた気持ちになり、自分でもやってみたいと思えた授業でした。授業はとても面白く、膨大な知識と共に、常に体験を伴ったリアリティのある内容でどんどん引き込まれていきました」
初めて建築の面白さを知った体験を通して、自身の中にある建築への興味を自覚し、「自分も勉強してよいのかもしれない」と思ったという竹内さん。先生と出会わなければ建築の道に進んでいないというほどのきっかけを経て、その後は建築の学びを深め、東京の設計事務所で経験を積んだ後の2009年に独立。38歳の時に故郷の北海道へ事務所を移転します。竹内さんにとって香山先生は恩師。先生に見てもらいたいとの思いから、手がけた建築は、今でも報告しているそうです。

身近なモノを使う“当たり前”が
技術と知見を深めていく
「ただ、そこにあるものを使って造るのがいい。それが普通のことだから。プロジェクトに取り組む際にコンセプトやストーリーを問われることがありますが、大切なのは真実性。“ストーリー構築”が目的になるのは、良い方法ではないと思います。近代以前の建物には魅力を感じますが、昔は今ほどの選択肢はなく、それしかないという切実さがあり、“真実性”が高いものが作られたのではないでしょうか。地方で建築に取り組むことの難しさは大きいけれども、かえってそれにより真実性は強くなるのでやりがいがあります」と、竹内さんは力を込めます。なにより事務所を構える東川町は家具の町。身近に木材がある環境です。
「木を切る人も知っているし、使う機械も削り方も知って設計が出来る。トピカは施工も行っているので、体を使って一緒に作る楽しさもある。そこには嘘がないと思っています」

北海道産のナラやタモ、カラマツ、トドマツ、札幌軟石、北見の鉄平石、当麻の砂利。トピカの建築には、北海道産の建材がふんだんに使われています。地元の建材を使うメリットを尋ねると……。
「そこにあるものを使う、つまり手段が制限されることだと思います。手段が制限されると技術や知見が深まるから。ある程度の型が決まった制限の中で、探求しながら工夫を凝らして、経験を積み重ねていくことが出来ます」
「地域固有のものや、歴史、技術は大きな資産だと思っています」という竹内さんの言葉を噛みしめると、身近にあるモノを使う当たり前の中にこそ永続性があるのだと再認識します。取材中に幾度となく出てきた“普通”という言葉の中には、“普遍の価値”という意味が込められているのだと感じられました。
そんな竹内さんが、存在を知ったと同時に参加を決めたのが「白樺プロジェクト」。まるごと一本を余すところなく活用できるシラカバを育て、北海道の未来をつくるために産業や文化として地域の生活に根付かせることを目標とした活動です。そして竹内さんがこれから挑戦したいことにも、シラカバが関係しているのだとか。
「シラカバ材を内装に使った、規格住宅を造りたいと思っています。図面はもう出来ています。シラカバは安価で、未利用の魅力ある材料です。インフレで世の中の住宅が高騰している中で、シンプルで安価に一般の人でも住める北海道の家がつくれたらと思っています。そういう家をつくり続けて、北海道の街並みも魅力的になっていけばいいなと思っています」
グリーンパティオで使われているシラカバ家具も、白樺プロジェクトの認証製品。夏は涼しく、冬は暖かい大丸札幌店のグリーンパティオへ、みなさんもひと休みしにいらしてください。

※本記事の情報は、2025年7月のものです。
TOPICA /トピカ
住所:〒071-1425 北海道上川郡東川町西町1丁目2-5 東棟A2
TEL:0166-56-8384
営業時間:9:30~17:00(定休 日曜)
HP:https://topica.design/