今村 育子 札幌駅前通まちづくり株式会社
札幌のまちが現代美術館に。日常をアートの回廊に変えるサッポロ・パラレル・ミュージアム
大丸札幌店のコリドール(外廊)に、現代アートがお目見えする季節がやってきました。2021年から続くサッポロ・パラレル・ミュージアムは、札幌駅前通の商業ビルや地下歩行空間といった、私たちが通勤・通学、買い物で日常的に行き交う“まち”を現代美術館にしてしまう、とっておきの9日間です。大丸札幌店は2023年から会場として参加しており、2026年1月31日(土)~2月8日(日)の会期には、京都を拠点に活動する2組、美術家の久門剛史さんとTHE COPY TRAVELERSさんの作品をお迎えすることになりました。今回ご紹介するのは、このイベントを主催する札幌駅前通まちづくり株式会社に勤務し、サッポロ・パラレル・ミュージアムの立ち上げから関わり続けている今村育子さんです。美術家としても活動し、一児の母でもある今村さんに話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 澤田創太・千葉美奈子
今村育子 いまむらいくこ2>
札幌駅前通まちづくり株式会社
札幌市出身、47歳。2006年より日常の中にある些細な光景や、ものごとの“間”などをモチーフにしたインスタレーション作品を制作。2011年に同社へ入社後、主に、Think School(シンクスクール)、PARC(Public Art Research Center)、さっぽろユキテラス、眺望ギャラリー テラス計画、まちのこそだて研究所gurumi、サッポロ・パラレル・ミュージアムなどの企画をはじめ、主催事業の宣伝物デザインを担当。美術家としても活動しており、その視点を生かして、アートを通したまちづくり、人材育成、札幌の魅力創出に取り組む。
大丸札幌店のコリドールが
現代アートの展示会場に!
2025年11月のある日、大丸札幌店1階のコリドール(外廊)には3人の姿がありました。京都を拠点に活動する美術家の久門剛史さん、札幌駅前通まちづくり株式会社の今村育子さん、そして大丸札幌店の澤田。この日に行われていたのは、サッポロ・パラレル・ミュージアムの会場となるコリドールの下見です。
「札幌駅周辺の夜の雰囲気や展示スペースをご覧いただき、久門さんはこの場所のための新作を制作してくださることになりました」と教えてくれたのは、サッポロ・パラレル・ミュージアムの担当者である今村さん。
2021年のコロナ禍に始まったサッポロ・パラレル・ミュージアムは、札幌と大通を結ぶ札幌駅前通沿いの商業ビルやチ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)に、現代アートの作品を展示して、まちなかを美術館に見立てるイベントです。まちなかのリアルな展示とオンライン上の展示を組み合わせ、世界中からアクセスできる点も大きな特徴のひとつ。2026年は、大丸札幌店の会場に久門さんとTHE COPY TRAVELERS(ザ・コピー・トラベラーズ)さんの作品を迎えることになりました。
「なるべくまちなかで、誰もが目にできる場所に、どのような作品を置くかを大切にしています。私たちと同じ時代を生き、問題意識を共有する作家であることを軸に、場所の個性や条件を生かせる作品を考えながら作家さんを選んでいます」
コリドールは札幌駅南口に面した外廊。年代も居住地も国籍も異なる多くの人が行き交い、物や通勤・通学といった私たち市民の日常の中にある空間です。
「札幌駅前通に会場が点在する中で、大丸札幌店は“始まり”でもあり、“終わり”でもある大切な場所。久門さんは駅前の百貨店という華やかな空間を生かしてくださると思いますし、身近な要素を取り入れた写真やコラージュで表現するTHE COPY TRAVELERSさんの作品は、若い世代にも届くのではないかと考えました」
20代に積み重ねてきた経験は
アートとまちづくりにつながって
実は、今村さんご自身も、インスタレーション作品を手がける美術家です。しかし意外にも、かつてはアートに興味がなかったのだとか。
「高校生の頃は、ファッションや音楽が大好きでした。カルチャー全般に興味はありましたが、そこにアートは入っていませんでした。版画家の叔母の影響でトラディショナルな美術表現を見る機会はありましたが、例えば女性のヌードといったモチーフの作品は高校生の私にとって遠い世界のものだったんです」
雑誌を通してファッションや音楽、映画などに触れる中で、「何かを表現する仕事に関わるなら、紙媒体のグラフィックデザイナーかな」と考えるようになった今村さんは美大進学を目指します。しかし思い描く進路に進めなかった時に叔母さまの勧めで入ったのが、現在のCAI現代芸術研究所が行っていたリーセントアートスクールでした。
「そこで初めて“現代アート”というものを知りました。今を生きる人の表現。私が知っている美術より多様な世界で更新していこうとする表現。挑戦する姿、自由であることにピンときておもしろさを感じたんです」
奇抜なファッションを好んでいた高校時代は、友達がほとんどいなかったという今村さん。しかしアートスクールには、同じ感覚を共有できる仲間がいたそうです。さらに19歳のときに海外研修として出向いたヴェネチア・ビエンナーレで、見える世界は一気に広がったのだとか。
「インスタレーションという空間表現を初めて知ったのはこのとき。美術の文脈を知らなくても、体験によって美術を感じられる表現の可能性に衝撃を受けました」
卒業後は、アルバイトをしながらインスタレーションの作品制作をしたり、フリーでデザインの仕事を請け負ったり、ギャラリーを手伝ったり、父親が営む看板屋の仕事を手伝ったり。また屯田南小学校に1カ月間通って、子どもたちと灯りのモニュメントを制作する「おとどけアート」の活動に参加したことも。美術家としての自己表現や人とアートを共有する体験の試行錯誤すべてが、今の仕事に役立っています。
自己表現を世界と接続させる方法を考え続けていた今村さんの意識が、アートを通して人やまちをつないでいく方向へと変化したのは、設立から半年ほどの札幌駅前通まちづくり株式会社に入社してから。チ・カ・ホ オープン時のチラシ制作をきっかけに、創作活動を通して出会った人たちからの推薦を受けて入社したのは2011年のことでした。
「できない」を解決する策が
新しい発想の種となって
2021年に始まったサッポロ・パラレル・ミュージアムのルーツは、2015年から2020年にかけてアカプラ(札幌市北3条広場)で開催されていたさっぽろユキテラス。今村さんは、雪と光にアーティストの表現を融合させ、見るだけでなく体験するアートの場をつくり出しました。そんなイベントが変化したのは2016年、第一子を出産したタイミングだったそうです。
「当初アートの担当は私ひとり。でも出産を経てひとりでは無理だと感じ、プロの方にご協力いただくチーム運営の形に切り替えました」
ユキテラスでは、雪不足という課題から氷を使ったり、建物自体を雪の美術館に見立てたりする発想が生まれるなど、多くの仲間を得てイベントは大きく進化しました。
一方コロナ禍になり、多くのイベントで集客することが難しいという課題が生まれていました。
札幌駅前通地区のアートイベントも同じくその課題に直面していましたが、リアル会場とオンライン展示を組み合わせるという課題解決のためのアイデア一つひとつが、サッポロ・パラレル・ミュージアムの誕生へとつながります。
「沿道企業の方々との協力や回遊性も大切にした“まちなかのアートプロジェクト”は、いつかやりたい構想でした。コロナに負けないように『やるなら今だ!』と考えたんです」
まちづくりとアートの分野を担う今村さんにとって、両者は似ているのだとか。
「まちづくりもアートも、どちらも価値が定まっておらず、いい意味であいまいです。設えを用意すれば完成するわけではありません。そこに誰が集まり、何が行われるかで、コミュニティのあり方もその場の空気もまったく変わってしまうから」
探し続けているのは、札幌のまちを構成するための“もうひとつの価値”。
「札幌には、おいしい食べ物もあるし、買い物をする場所もある。生活を形づくる構成要素は十分にそろっている中で、あえて“ない”ものは何だろうと考えたとき、見ること、考えること、感じることのように形のない価値、もうひとつのまちの機能をアートでつくり出せないかなと考えています」
今村さんが手がけるサッポロ・パラレル・ミュージアムは1月31日からスタート!思いがけず心に残る作品と出合えたり、気になる作品を目当てに通り道を変えて歩いてみたり。いつもの日常を変えるアートの寄り道を、9日間たっぷりとお楽しみください。
※本記事の情報は、2025年12月のものです。
札幌駅前通まちづくり株式会社
住所:〒060-0003 北海道札幌市中央区北3条西3丁目1 札幌駅前藤井ビル8F
TEL:011-211-6406
HP:https://www.sapporoekimae-management.jp(※別サイトに遷移します)































