BOTAN 花屋
きらめく季節に凛とした森の息づかいを。大丸札幌店のクリスマスツリー
大丸札幌店1階の吹き抜けを彩るクリスマス装飾は、毎年、私たちスタッフも楽しみにしている冬の風物詩です。2025年11月12日の営業終了後に設営されたのは、吹き抜けから吊り下げた2つのクリスマスツリー。大丸札幌店のクリスマス企画『HAPPY HOLIDAYS!』のテーマである「劇場」に合わせ、赤いリボンと金色のタッセルで彩られたツリーは、凛とした空気をまとい、静かな森の気配を店頭まで運んでくれました。北方系のヒバであるヒノキアスナロを材料にクリスマスツリーを制作してくださったのは、函館を拠点に花屋として活動するBOTAN(ぼたん)さん。お話を伺うために訪ねたツリー制作中の倉庫では、山に入って自ら切り出したというヒノキアスナロの枝を、骨組みとなるワイヤーメッシュに一本ずつ差し込んでいる真っ最中でした。森から枝を切り出し、装飾期間が終わると函館の土へと還す。そんな巡りの中で、自らも自然の一部として植物との交感を模索し続ける BOTANさんに話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 藤尾智美
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花屋
函館出身。2022年より、野花や草木を使った染色やワークショップを行うsumireさんとともに、「BOTAN&sumire」として活動中。「植物との交換」をテーマに、森の草木や野花を用いて音楽イベントや空間の装飾などを手がける。大丸札幌店の2025年クリスマス企画『HAPPY HOLIDAYS!』では、1階吹き抜けのクリスマスツリー装飾を担当。
南茅部地区から切り出した
ヒノキアスナロが原料
2025年11月12日の営業終了後、大丸札幌店正面玄関入口の吹き抜けに設営されたのは、2つの大きなクリスマスツリー。デザイナーが手がけた装飾デザインをもとに、ツリー制作に参加してくれたのが花屋のBOTAN(ぼたん)さんです。
花屋と紹介したBOTANさんですが、その活動内容は一般的に想像する“花屋”のイメージとは少し異なります。
「自分の肩書きを突き詰めると、“人間”という答えに行き着くのかもしれません。花屋として働き、30代で独立して店を持ちました。それまでは社会の仕組みの中で生きてきましたが、店を閉じた今は、他人からどう見られるかより、“この瞬間、自分はどう生きるか”を考えていて。そのツールとして植物があるんです」と、言葉を探しながらBOTANさんは教えてくれました。
染色家でもあるsumireさんと共に、「BOTAN&sumire」として里山の草木や暮らしのそばにある野花と向き合う“植物交感実験”をスタートしたのは2022年のこと。
BOTANさんは野山で自生する植物や解体現場で伐採される樹木などに目を向けて、空間やイベントの場を演出。sumireさんは、まちの片隅に生きる植物や特定指定外来種、駆除対象の草花などを使って布やパネルの作品を制作。自生する草木を、どう生かすことができるのかを独自の視点と手法で追求するBOTANさんとsumireさん。2人のアプローチ方法と表現が違うからこそ、採取した植物の命はより豊かに生かされます。
山歩きが気づかせてくれた
自然の中にある植物の美しさ
花屋との出合いは22歳のとき。アルバイトを探していたBOTANさんが、札幌で偶然見つけたのが花屋の求人でした。
「当時はバンド活動をしていたので、自由に休みが取りたかったんです。『一生懸命働く代わりに、休みだけは自由にください』と社長に伝えたら、そんな自分をおもしろがって採用してくれたのが始まりでした。花屋とはいえ、その会社は葬儀の祭壇づくりを専門としており、職場は男性ばかりの力仕事。その後は切り花を売る花屋に勤めたこともありましたが、大きな作品である祭壇づくりの方が自分には合っていたように思います」
故郷の函館へ帰り、独立して花屋を営んでいたBOTANさんは、山登りを通して自然の中で生きる植物と出合い、世界の見え方が一変したといいます。
「森の中で立ち姿がきれいな植物を見つけても、名前すら知らない自分に気がついたんです。花屋なのに何も知らないことにショックを受けたと同時に、知らないまま花屋をしている自分に罪悪感もありました。それから、植物の名前を調べたり、枝を切り出して水揚げの実験をしたりして、花材として使えるかどうかを自分なりに確かめるようになりました」
調べても出てこない答えを、自分の手で試して見つけ出す中で、「昔の暮らしは、当たり前のように身の回りにある草木を工夫して使い、山の植物を採って束ね、装飾していたに違いない」と確信を得たBOTANさんは、次のステージへ進むために店を閉める決断をします。営業が難しかった2022年のコロナ禍に、「自分がやりたいことを、もう一度見つけたい」という思いもあったそうです。
「森の植物と出合って感じた喜びが、この時期、自分の中でドラマチックに変化しました。人とのご縁から音楽イベントの空間を自然の植物で装飾する機会にも恵まれ、『できる!』という手応えも感じられたんです」
ホテルの装花に季節の枝を取り入れたり、イベント会場を森の木々で彩ったり。店を閉めてからの活動の場は、花屋の枠を越えて想像以上に広がり続けています。
「自分が熊だったらと、よく森の中で考えます。獣道で四つん這いになると、植物がこんな風に見えるのかとか、おいしそうな実だなとか、人間の視点とはまったく違う景色が見えてくる。森の中にいると、自分が自然の一部であり、動物なのだとわかります。目に映るもの、鼻に抜ける香りに心を留めながら、いつしか自分自身が山となり、植物に近づいて融合していくような感覚になる。だから作品を手がけるときは、『これは自分自身といえるだろうか』と問いながら向き合っています」
役目を終えたツリーの枝は
函館の土に還して、また巡る
取材スタッフが訪ねたのは、クリスマスツリーの設営を前に制作が進められていた札幌市内の倉庫。作品の横には材料となるヒノキアスナロの枝が山のように積まれており、室内は爽やかな森の香りに満ちていました。
「香りを試してみますか?」とBOTANさんが差し出してくれた小枝を手に取ると、肉厚な葉が魚の鱗のように重なり、名前のとおり爽やかなヒノキの香りが感じられます。北方系のヒバであるヒノキアスナロの北限は渡島半島南部。活動拠点としている函館近郊の山で自ら切り出した枝を札幌まで運び、制作を進めてくださいました。
「身の回りにあるものを工夫して使うこと。それが現在の自分のスタンスです。今回、植物を装飾に使う際に気を付けたことは、葉の色を保ちつつ、葉が落ちずに日持ちすることです。花材選びも工夫することの一つであり、見てのとおりヒノキアスナロの葉は肉厚で、私の経験ではスプレーなどで固めなくても、ある程度の期間は葉が落ちません。そこで、函館の南茅部里山保全の会事務局長の成田幸大さんにご協力いただき、山から枝を切り出してきました」
大丸札幌店のクリスマスツリーは、BOTANさんが手がける他の作品と同様に、役目を終えたら函館近郊の土へと還ります。
「活動で使った木が土に還ることができれば、小さな生き物をはじめとした生態系が再び動き出す。自分たちが生きている間に、その巡りまでを見届けたいですね」
2025年のクリスマスツリー装飾は、12月25日(木)まで。吹き抜けのツリーを見上げながら、ヒノキアスナロの森の気配を感じていただけたらうれしいです。
※本記事の情報は、2025年11月のものです。





























