百花の人
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中川なかがわ 斐世利ひより 株式会社京屋

見上げる花に、春がほころぶ。装飾デザインの力

百花POINT

大丸札幌店1階の吹き抜けをはじめ、店内を彩るさまざまなオブジェ。ゴールデンウィークやクリスマスなど、これまで多くの装飾企画でご一緒してきたのが、特殊造形物やオブジェ制作、空間デザインなどを手掛ける京屋さんです。私たちが頭の中で描く空間や装飾のイメージを、安全を大前提とした確かな技術で形にして実現してくださる頼もしいプロフェッショナル集団。2026年2月現在、大丸札幌店では3月18日(水)から始まる春の装飾企画が進行しています。このプロジェクトに携わっているメンバーの一人が、今回ご紹介する株式会社京屋 入社1年目の若手デザイナーである中川斐世利さん。私たちは、23歳の若い感性と挑戦が、これからさらに大丸札幌店の装飾表現の幅をさらに広げてくれると期待しています。春装飾の企画が進行している2月中旬、札幌市白石区にある京屋さんを訪ねました。

取材者:大丸札幌店 村田大樹

PROFILE

中川 斐世利 なかがわ ひより

株式会社京屋 北海道営業部デザイン課所属

札幌市出身、23歳。札幌市立大学デザイン学部人間空間デザインコース卒業後、2025年4月から現職。2026年3月18日から始まる大丸札幌店の春装飾企画のメンバーとして、花のオブジェ設計に取り組む。

百貨店の仕事の一つ
館内を彩るVMDとは?

「照明のシェードから発想した、春装飾用のお花の模型です。この模型を元に、天井から吊り下げたときに花の形に見えるかどうか確認しながら、花全体のシルエットや花びらの反り方、葉と花のバランスなどを調整していきます」

そう話すのは、株式会社京屋 北海道営業部 デザイン課の中川斐世利さん。見せてくれたのは、カラー出力した紙を切り貼りして手作りしたカラフルな花の模型です。これは2026年3月18日から大丸札幌店の店頭に春を運ぶ、大きな花のオブジェを制作するための最初の小さな試作品。実際の春装飾では、一つが70センチ近い大きさの花になる予定で企画は進行しています。

天井から吊した花を見上げると、その空間がぱっと華やぐよう!自然界よりもひとあし早くやってくる店頭の春が、今から待ち遠しくなるかわいらしさです。

花の模型をもつ中川さん。出力した展開図をカッターナイフやハサミで切り出し、紙にカーブをつけたり糊付けしたりしながら模型を作成。この模型をベースに何度も試作を重ね、実際のオブジェへ向けて精度を上げていきます。この模型がどんな装飾へと変わっていくのか、皆さんも完成を楽しみにお待ちください。

あらためて、中川さんは大丸札幌店のVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)チームとともに、店内外の空間装飾を形にするデザイナーです。

VMDとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、百貨店の仕事の中にある役割の一つ。店内全体の季節感を演出する装飾から商品のディスプレイまで、お客さまが商品や作り手と出合う“店頭の空間”を彩り、物や人の魅力を伝える世界観をつくり出す仕事を指します。目指しているのは、店を訪れる時間そのものが素敵な思い出になるような空間演出です。

例えば、大丸札幌店で2025年に行ったクリスマス企画『HAPPY HOLIDAYS!』では、1階吹き抜けに劇場をイメージした大きなクリスマスツリーを吊り下げました。このツリーを制作したのは、以前ご紹介した花屋のBOTANさん。その魅力を最大限に生かす店内全体の装飾デザインや世界観をプランニングしてくれたのがデザイン会社。さらに完成したツリーを、営業終了後から翌朝の営業開始までという限られた時間の中で、高さ約6メートルの吹き抜け空間へ安全に吊り下げ、私たちのイメージを実現してくれたのが京屋さんなんです。

このように、店頭を彩る空間演出は、VMDチームと共に、特殊造形物やディスプレイを制作する会社、空間や世界観を設計するデザイン会社、装飾をアートへと昇華させるアーティストなど、さまざまな外部プロフェッショナルの力を借りながらチームで実現しています。

手芸が好きな三つ子の魂は
いつしか仕事につながって

「小さな頃から手芸が大好きでした。父が好きだった太陽の塔をモチーフにしたストラップを作って贈ったり、大好きだったNHKの朝ドラ『あまちゃん』の主人公が着ていた絣半纏を、ディズニーキャラクターのぬいぐるみサイズで仕立てたり。ものづくりに夢中な子どもでした」

好きなことを学びたいという思いで中川さんが進学したのは、札幌市立大学デザイン学部 人間空間デザインコース。建築分野を専攻し、商業施設や住宅などの設計を学びます。

「デザイン学部は芸術の森に隣接していて、とても自然が豊かな環境でした。自分の好きなことに取り組める空気感があり、よい意味で学生同士が干渉しすぎず、肩の力を抜いて興味のあることに没頭できる4年間でした」

「学生の頃から街へ出かけるのが好きで、大丸札幌店にもよく足を運んでいました。今振り返ると、装飾が目的だったわけではないものの、空間の魅力に惹かれて訪れていた部分もあったのかなと感じています」と中川さん。

大学3年次に仲間と共に応募した、一般社団法人北海道開発技術センター設立40周年記念「冬のくらしアイデアコンテスト」では、「愉雪の巡い(ゆうせつのうつろい)」で最優秀賞を受賞。

「冬の暮らしを便利にしたり、苦労を克服したりするアイデアを募るコンテストでした。例として雪かきボランティアが挙げられたのですが、支援を受けた高齢の方の『若い人と新しい関わりができてうれしかった』という言葉が印象に残って。そこから、冬を好きになる仕組みや、冬の不便や大変さを少しでも前向きに捉えるきっかけをつくりたいと考えたんです」

芸術の森キャンパス屋上で自然林を定点観測した研究を踏まえ、雪解け期に現れる「雪えくぼ」「根びらき」「鳴き雪」といった冬の自然現象がもたらす視覚と聴覚の美しさを、大通公園に展開する環境デザインとして提案。熱容量や熱伝導率の異なる素材を配置することで、積雪と融雪の繰り返しの中に模様が浮かび上がるのではないかという案は、現在も実現に向けて少しずつ研究が進んでいるそうです。

いつか、自分のデザインが
街を構成する一部になれたら

「入社初日の仕事は、大丸札幌店の吹き抜けに吊り下げるクラゲのオブジェの展開図制作でした」

なんと中川さんが勤務初日に託されたのは、2025年のゴールデンウィークに大丸札幌店で開催された『海のなぞとき 大丸水族館』を彩る装飾アイテム、クラゲの展開図制作だったそうです。

中川さんが手掛けたクラゲの展開図には、大学で学んだ建築設計の知識も生かされています。

「平面の展開図は、正三角形と二等辺三角形の組み合わせによってクラゲの傾きや形状が変わります。下から見上げたときに底面が何角形に見えるかで印象が大きく変わるので、上司のチェックを受けながら調整するのが大変でした」

大丸札幌店の1階で気持ちよさそうにゆらゆらと泳いでいたクラゲが、社会人としての第一歩となる仕事だったとは、私たちにとっても光栄なエピソード。さらに、立体的だったあの大きなクラゲが、平面から生まれていたことにも驚かされます。

2025年のゴールデンウィークに、小樽水族館の協力のもと開催した『海のなぞとき 大丸水族館』。吹き抜けでは、直径900mmと1200mmの2サイズ、オーロラ素材で制作された5体の巨大クラゲが泳いでいました。

「大丸札幌店は、訪れるたびにまったく違う装飾が施されているイメージがあります。何でもネットで完結しがちな時代ですが、店頭に足を運ぶ価値がある、体験価値の高い空間だとも感じます。吹き抜けなどのダイナミックな装飾がありながら、その要素が各階のケース装飾にもリンクしていて、その細やかさがとても素敵です」

吹き抜けは大がかりな装飾が可能ですが、設営が大規模になる分だけ落下物を防ぐ安全対策が何より重要になります。

「京屋の先輩は、細部に至るまで一つひとつにこだわりを持って取り組んでいます。お客さまの要望をできる限り叶えるために試行錯誤している姿をいつも見ていますし、より良いものを目指して何度も作り直したり、プランを書き直したりする姿は、とてもかっこいいと思います!」

デザイン課ディレクターの清水さんと先輩デザイナーの室田さんのサポートを受けながら、中川さんは日々奮闘。

京屋の皆さんは、「こんな装飾がしたい」という私たちの難しい要望に対し、安全を確保しながら「さて、どう実現しようか?」と楽しみつつ挑んでくださる心強いパートナー。そんな先輩たちの姿は、私たちだけでなく中川さんの目にもまぶしく映っているようです。

仕事を始めてまもなく1年。今では先輩方のサポートを受けながら、一人で担当する仕事も増えてきました。

「装飾の仕事のおもしろさは、人に見ていただけること。お客さまの反応が見られるのはもちろん、自分自身がその場に立ったときに達成感が得られます。そしていつか、自分がデザインしたものが街のさまざまな場所で見られるようになり、街を構成する一部になれたらうれしいです」

京屋と同じ1928(昭和3)年に創業した「中山ミシン」の店先で、長年ミシンを踏み続けていた「千鳥ふみ子」さん。札幌の街で見かけた記憶のある方も多いのではないでしょうか。実はこのマネキンは現役時代に京屋でメンテナンスされており、足首や膝、股関節を可動式にすることで、ミシンで縫製しているおなじみの姿が表現されています。「中山ミシン」の閉店に伴い、ふみ子さんは京屋のショールームにて、今も元気にミシンを踏み続けています。

※本記事の情報は、2026年2月のものです。

株式会社京屋 札幌オフィス
住所:〒003-0011 北海道札幌市白石区中央1条3-1-16 4F
TEL:011-821-6221

Events

Blooming in Spring

装飾期間:2026年3月18日(水)〜5月26日(火)

大丸札幌店が2ヶ月間にわたり、春の装飾に彩られます。華やぐ春の気分とともに、お買い物をお楽しみください。

企画取材:村田大樹/ 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘
  1. 001
    菅野 裕隆 株式会社 菅野養蜂場
  2. 002
    藤井 信二 メムロピーナッツ株式会社
  3. 003
    岡崎 実央 アーティスト
  4. 004
    林家 きよ彦 落語家
  5. 005
    宮岸 蒼 札幌ファッションデザイン専門学校DOREME 学生
  6. 006
    澤田 怜那 北海道芸術デザイン専門学校 学生
  7. 007
    佐久間 穂菜美 おたる水族館 飼育員
  8. 008
    山田 真史 JAPAN AX PROJECT株式会社
  9. 009
    妹尾 大樹・萌子 ORITSURU
  10. 010
    小笠原 敏文 株式会社 五勝手屋本舗
  11. 011
    北山 カルルス イラストレーター
  12. 012
    高橋 秀寿 高橋工芸
  13. 013
    日名地 博花 Cado
  14. 014
    伊藤 沙菜 株式会社 Easy Peasy
  15. 015
    石川 朋佳 トヅキ合同会社
  16. 016
    佐藤 壮馬 美術家
  17. 017
    竹内 隆介 トピカ
  18. 018
    林田 直樹 Brift H SAPPORO
  19. 019
    中村 夏音 Kanonnohimo
  20. 020
    宮本 翼 PIZZERIA DEL CAPITANO
  21. 021
    安藝 元伸 安芸農園
  22. 022
    橘 結 アーティスト
  23. 023
    小林 啓太 株式会社パルコ
  24. 024
    伊勢 昇平 株式会社ブルーチーズドリーマー
  25. 025
    鈴木 聡 鈴木聡ヴァイオリン工房
  26. 026
    沼田 大資 株式会社フォーシーズンズ
  27. 027
    BOTAN 花屋
  28. 028
    竹花 利貴 日本清酒株式会社 杜氏
  29. 029
    今村 育子 札幌駅前通まちづくり株式会社
  30. 030
    荒川 雄生・桜 ボクツメ
  31. 031
    河野 理恵 Liaison
  32. 032
    中川 斐世利 株式会社京屋
  33. 033
    星野 恵 一般社団法人 相互支援団体かえりん
  34. 034
    山岡 千秋 こぶ志窯
  35. 035
    荒田 朝陽 アーティスト
  36. 036
    吉川 貫一 アーティスト
  37. 037
    長谷 有理子 長谷製菓株式会社
  38. 038
    マーク・ギャニオン GAGNON株式会社
  39. 039
    吉田 慎司 株式会社まちづくり山上
  40. 040
    鳥羽 直樹 GELATERIA torinosu
  41. 041
    石田 正哉 余市宇宙記念館