百花の人
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星野ほしの めぐみ 一般社団法人 相互支援団体かえりん

助けて、助けられて。子ども服の交換から生まれるおおらかでやさしい循環。

百花POINT

子育て中のご家族にとって、子どもの成長は何よりもうれしいものです。しかしその一方で、次々と服が小さくなり、着られなくなっていくという現実もあります。また、妊娠や出産をきっかけに社会との接点が減り、体調や心の変化に戸惑いながら、孤独を感じつつ子育てに向き合っているお母さんがいるかもしれません。今回ご紹介するのは、一般社団法人相互支援団体かえりん 代表理事の星野恵さんです。子ども服のおさがり交換会『おさがりくるりん』を主催し、服の交換という“ものの循環”を通して、人と人とがゆるやかにつながりながら困り事を解決する相互支援の場を生み出しています。お客さまにも、働くスタッフにも子育て世代が多い大丸札幌店。星野さんの思いに共感した私たちは活動を応援する気持ちを込めて、不要になった洋服を回収する「ECOFF(エコフ)」の取り組みで、お客さまからお預かりした子ども服を団体へご提供しています。星野さんご自身も4人のお子さんを育てるお母さん。なぜ多忙な日々の中で団体を立ち上げ、活動を続けているのか、その原動力はどこにあるのかお聞きしたくて、星野さんのもとを訪ねました。

取材者:大丸札幌店 藤尾智美

PROFILE

星野 恵 ほしの めぐみ

一般社団法人 相互支援団体かえりん 代表理事

大分県出身、福岡県育ち。44歳。福岡大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社法人営業部や株式会社アプロにて人材派遣や人材育成に従事。結婚を機に日本生命に復職し、2010年に福岡で第一子を出産。夫の転勤により2011年から札幌在住。同年に、前進となる子育て相互支援団体かえりんをつくり、2020年に一般社団法人相互支援団体かえりんを設立。

子ども服を持ち寄り、持ち帰る
1袋詰め放題のおさがり交換会

“新生児から150cmサイズまでの子ども服や服飾小物をおさがり服として持ち込み、約30リットルの専用袋に入る分だけ持ち帰り可。参加費は一世帯700円”

おさがり交換会『おさがりくるりん』は、サイズアウトしてしまったけれど、まだ着られる子ども服を持ち寄り、必要な洋服を持ち帰ることができる取り組みです。家族の思い出が詰まった一着を、次の子どもが受け継ぐ。そんな持ちつ持たれつの循環が多くの共感を呼び、2026年現在、無料会員数は約1,500名。2026年3月現在の延べ参加者数は8000名にのぼります。

「小さなサイズの子ども服であれば約40着が詰め込めます。冬用のアウターは袋に入れずに持ち帰れますよ」

そう教えてくれたのは、『おさがりくるりん』を主催する一般社団法人相互支援団体かえりん代表理事の星野恵さん。小学2年生から中学3年生まで、4人の子どもを育てるお母さんでもあります。

服を持ち込み、持ち帰るという仕組みに加え、「袋にどれだけ詰められるか」という楽しさが、この交換会の大きな特徴です。譲る・もらうだけではなく、体験として楽しめる工夫が多くのリピーターを生む理由のひとつ。

子どもの成長とともに必ず訪れるサイズアウトの悩みは、新しい服を購入するほか、知り合い同士で譲り合ったり、リサイクルショップで売買したりと、その解決方法はさまざまです。

「お互いが、お互いを支援しあう関係が一番気楽なのかなと思っています。例えば昭和の時代には、お醤油を切らしたらお隣さんに借りる、なんて話も聞いたことがありますが、『ごめん、貸して!』『いいよ、いいよ』『昨日はありがとうね』と言い合える関係は、ギスギスしていなくて、気持ちが楽だと思うんです」

星野さんが目指すのは、当事者同士がフラットにつながり、気負わずに助け合える仕組みづくり。その原点には自身の経験がありました。

取材に訪れたのは、星野さんが主宰する「シェア型書店ぷらっとBOOK」。134名のオーナーが大きな書棚の一角を有料で借りて書店オーナーとなり、好きな新書や中古本を販売しています。書店オーナーがいることで店の家賃が賄えるため、多世代交流や支援の場を維持することが可能です。

子ども服の悩み、子育ての孤独感
当事者だからできることを探して

大学卒業後に勤めた日本生命保険相互会社法人営業部では、入社当初から経営者と話をする機会が多かったという星野さん。

「経営者の方の話がおもしろくて。経営視点ではどんな世界が見えるのだろう、その世界観を見てみたいという単純な好奇心から起業に興味を持つようになりました」

ベンチャー企業で経験を積み、結婚を機に生命保険会社に復職。第一子の出産を経て、ご主人の転勤で福岡から札幌へ移り住んだのは、長女が1歳になる育休中のことでした。

雪国での生活は、初めてのことや知らないことの連続。中でも驚いたのが、必要になる子ども服のバリエーションの多さです。

「スキーウェアや脚絆(きゃはん)と呼ばれるスノーカバー、冬用と春用で異なる長靴。気温差が大きいので上着の種類も必要ですが、成長とともにすぐサイズアウトしてしまいます。雪のない地域と比べると、肌感覚で3倍くらい費用がかかるように感じました」

服の山から選び抜いて持ち帰った服を、家でファッションショーのように子どもに着せて楽しんだり、好きなキャラクターや乗り物柄の服を見つけてうれしくなったり。自分が持ち込んだ服を、別のお母さんが選んでくれた姿や、子どもが着ている姿を見て胸が温かくなったり。『おさがりくるりん』は、たくさんの喜びを生み出しています。

そしてもうひとつ、子育てを経験しながら大きく揺れ動いたのが心身の変化でした。

育休中に感じた孤独感や社会との断絶感。復職時の後ろめたさや、子どもに対する罪悪感。星野さん自身も産後鬱を経験し、友人が産後鬱で亡くなるという悲しい現実にも直面します。

「私自身、子育ての当事者にならないとわからないことがたくさんありました。命の誕生は素晴らしいことなのに、現実との乖離を強く感じてしまって。この問題解決が進まないのは、当事者が声を上げないからだと思います。言えないというより、まったく言う暇もないですよね」

「『おさがりくるりん』は事前予約制ですが、ドタキャンも遅刻も、途中で帰ってもよし。ただでさえ時間に制限されやすい子育て中の方に、ゆるゆる気軽に参加していただき、なにより楽しんで笑顔で帰ってもらいたいです。コロナ禍以降は30分入れ替え制にしており、連れてきてくれた赤ちゃんは、服を探している間、私たちスタッフが面倒をみます。泣いても気にしないでくださいね」と星野さん。

目の前の命を守ることで精一杯の中で湧き上がる、社会課題への思いや、子どものそばにいたいという気持ち。その狭間で、自分自身の人生をどう生きるのかという問いも生まれます。

「子育てに専念する育休の時間も、仕事と子育てをするワーママとしての時間も経験した私は、ぐちゃぐちゃになった感情のエネルギーをため込んでいる状態でした。あくまで私は、支援者ではなく当事者。当事者だからこそできることがあるのではないかと考えるようになったんです」

当事者同士が助け合える仕組みをつくり、子育てが少しでも楽になる“体験の場”として始めたのが、おさがり交換会。2016年に札幌の東区民センターで開催した第一回目の交換会には、初回にもかかわらず200人を超える人が参加し、以降、参加者数も会場を提供してくれる協賛企業も増え続けているそうです。

子育て支援の輪は大きく循環
サーキュラーエコノミーへ

「『おさがりくるりん』は、産後、家にこもりがちになってしまったお母さんたちが、まずは外に出て人に会うためのきっかけづくりの場でもあります。家から出れば、気分が明るくなる可能性は高くなるはず。でも、枚数制限などを設けた場合、はたして子ども服10着のために来てくれるだろうかと考えました」

一袋詰め放題というゲーム性のある仕組みに込められているのは、「まずは外に出てきてほしい」という願いと、来てくれた人に楽しんでもらいたいという思い。

参加者からは、「宝の山から掘り出し物を探す感覚です」という声が届きます。

「自分の子どものおさがりを着てくれている子どもを見て、幼少期を懐かしく思い出すように、お母さんがふと我に返るような過去への回帰は、とても大切だと感じています。また、おさがりを提供することで、誰かの役に立っているという貢献欲求も満たされますし、限られた時間でこれだけ持ち帰れたという達成感も得られる。『おさがりくるりん』は洋服の交換というシンプルなイベントですが、実はいろんな要素が詰まっているのだと気づきました」

共感の輪は、子育ての当事者以外にも広がっていきます。

当初は交換会の会場で子ども服を回収していましたが、当日に持ち込めない人のために、今ではガソリンスタンドやホテルなどの協力を得て、多くの回収拠点が開設されました。

「昨年は、『特定非営利活動法人オペア』さんの就労支援事業所B型施設と連携し、回収拠点からの服の回収や仕分けをお願いする実証実験を行いました。また、衣料品リサイクルを手がける旭川の会社『キョクサン』さんのご協力のもと、廃棄せざるを得ない状態の服を買い取ってウエスにするほか、海外向けに再生していただけることになりました」

この日、おさがり交換会が行われたのはガソリンスタンドを事業運営している三ッ輪商会。広報担当の高嶋さん(左)が、過去に利用者としておさがり交換に参加していた繋がりから、当時ご自身が勤務していたガソリンスタンドに服の回収ボックスの設置を星野さんに提案したのが始まりだそうです。

おさがり交換会が始まって、2026年でちょうど10周年。回収した服をすべて有効活用し、無駄なく循環させる仕組みが整いはじめています。

「子育て支援と環境改良が、互いに影響しあうことがおもしろいと思っていて。これから目指したいのは、サーキュラーエコノミー。育児と福祉と環境がつながる仕組みを確立することです」

服を譲る人ももらい受ける人も、それを応援する人も、みんなで創り上げてきた子育て支援の活動は、サーキュラーエコノミー、できるだけ廃棄物をなくし、限りある資源を循環させながら活用する持続可能な経済システムの構築や、子育ての枠を越えて立場の異なる人同士が支え合う仕組みづくりへと、さらに大きな循環を描きはじめています。

※本記事の情報は、2026年3月のものです。

Events

ECOFF(エコフ)

ECOFF(エコフ)

会期:2026年3月31日(火)~4月6日(月)
時間:10時〜20時(最終日は18時閉場)
場所:大丸札幌店7階催事場 エコフ特設会場

毎年好評いただいているECOFFは、環境に優しいECOな活動を通してお客様への負担や地球への負荷をOFFする「持続可能な参加型プロジェクト」です。子供服のおさがりは7階エコフ会場前の特設回収BOX〈子供服回収BOX〉へ入れてください。お預かりした子供服の一部は『おさがりくるりん』へ提供されます。
※こちらはエコフクーポン配布対象外となります。

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企画取材:藤尾智美 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘