
北山 カルルス イラストレーター
オホーツクの 暮らしが生み出す 絵本の世界
大丸札幌店の店内には、私たちスタッフが大好きな“扉”があります。それは、鉄扉(てっぴ)と呼ばれるお買い物フロアとバックヤードをつなぐ鉄の扉。各フロアの鉄扉には、北海道にゆかりのあるアーティストのみなさんに描いていただいた、『teppiアート』があるからなんです! 7階寝具売り場横にある鉄扉の原画を描いてくださったのが、今回ご紹介する絵本作家の北山カルルスさん。やさしい線と印象的な色づかい、見るほどに想像が膨らんでいく作品には、私たちをウキウキと心躍らせてくれるパワーがあります。知床・斜里町で暮らす、北山カルルスさんのアトリエを訪ねました。
取材者:大丸札幌店 千葉美奈子
北山 カルルス きたやま かるるす2>
イラストレーター
大阪府出身、44歳。北海道教育大学函館校卒業後、小学校教諭として根室、神戸、札幌で計15年の教員生活を送る。2020年に知床・斜里町へ移住。2021年の『第1回SaTeMa サツエキテシゴトマルシェ』出展の縁から、2022年8月に大丸札幌店内の鉄扉をキャンバスにした『teppiアート』や、地下1階ほっぺタウンの北海道庁側アピア連絡口前や野菜・果物売り場横の扉、お菓子売り場横の扉、北海道土産のPOP、ほっぺタウンの公式X用プロフィールアイコン、メインビジュアル制作を手がけた。『第1回さっぽろ絵本グランプリ』グランプリ受賞。
“おもしろ”エッセンスを
絵の中にプラスして
北山カルルスさんにお会いするため、アトリエを構える知床・斜里町へ向かったのは5月半ばのこと。畑の土からふわふわと白い水蒸気が上がる「地霧(じぎり)」や、残雪が織りなす斜里岳の絶景、タンポポの花畑や満開の桜に、遅い春の訪れを感じながらの移動となりました。
にこやかな笑顔で出迎えてくれたカルルスさんは、2020年に斜里町へ移住。絵本やイラストの創作活動をするかたわらで、農家さんの繁忙期には畑仕事も手伝っているイラストレーター・作家さんです。
アトリエにお邪魔すると……。そこにあったのは大丸札幌店7階にある『teppiアート』の原画。買い物アイテムや馴染みのある建物が、鮮やかな色合いで描かれた作品からは、街を歩きながら買い物をするワクワク感が溢れてくるよう!なにより、繊細な線のゆらぎと塗り重ねたアクリルインクの質感からは、手仕事の原画だけが持つパワーが感じられました。

「DAIMARU SAPPOROの英文字は、各フロアで売られているモノで表現しました。札幌のイメージである格子状の道路には、市営地下鉄の色を選んでいます」とカルルスさん。
百貨店の商品を支える斜里町の農業や漁業のモチーフをくるくると巻いているのは、大丸のルーツである呉服店の反物。背景の模様として描かれているのは、大丸のシンボルである“孔雀”の羽!見れば見るほど作品に惹きつけられるのは、一枚の絵の中にたくさんの物語が隠れているから。
「私は生まれも育ちも大阪なので、ユーモアを加えたくなるんです」。現場に出向いて写真を撮り、徹底的に情報収集。作品には、カルルスさんの視点で捉えた小ネタがふんだんに盛り込まれています。

作風は独学で探し
教員から絵の道へ
大阪出身のカルルスさんは、北海道教育大学函館校に進学した後、根室市、神戸市、札幌市で計15年の小学校教員生活を送ります。
心の中に芽生えたのは、子どもたちが大人の価値観や社会の都合に合わせるのではなく、子ども自らが選択したり、意思を持って学んだりできたらいいなという思い。自分の考えを教員とは別の形で子どもたちに伝えることができないかと考えた時に、絵と文で潔く表現できる絵本という手段が結びついたとふり返ります。
「子どもの頃から五味太郎さんの絵が大好き。毎週くりかえし『ことわざ絵本』を借りて母に驚かれるほど、何度も読み込む子どもでした」。
今でも好きな作家さんの書籍や記事を探し尽くし、気に入ったフライヤーは持ち帰ってファイリング。この“とことん調べ尽くす”性格こそが、作品を生み出す原動力にも繋がります。

「絵を描くのは好きでしたが、学んだことはなかったので独学で勉強しました。最初に取り組んだのは、好きな作家さんの作品を模写すること。鉛筆も筆もアクリルインクも、さまざまなメーカーの商品を片っ端から試しました」。
使っていて快適な画材。描いていて気持ちがよい線や色。自分にとっての心地よさを追求した先に現在の作風があります。
行く先々でネタ集めのように写真を撮り、湧き上がってきたアイデアはスケッチ帳に書き留めます。ひとつのモチーフでも20枚、30枚と書き重ねながら無駄を省き、ベースの線画を完成。パソコン上で配色のバランスをイメージしてから、アクリルインクの調合がわかる色見本を決定します。実際の色づけは、着色と乾燥を10回程度繰り返して完成。隣り合う色が混ざらないように筆を運ぶ作業は想像以上に繊細なうえ、イメージ通りにいかなければ作業が進んでいてもボツにして、ゼロからやり直します。
「伝わることが大切だから、表現が一方通行にならないように気を遣っています。伝えるためにそぎ落としていくプロセスが楽しいですね」。
狙い通りに伝わるかどうか、最初のお試し役は奥さまの由季乃さんが担います。

絵と向き合うために
知床・斜里町へ移住
同じく小学校の教員だった由季乃さんと札幌で出会い、結婚したのが2019年のこと。ゆったりと絵と向き合う生活を模索して、ひょんな縁から夫妻は知床・斜里で移住を始めます。イメージ通りにいかないことも続きましたが、住む人や環境に愛着を持った斜里町での暮らしを選択。取材にお邪魔した2025年春は、隣町の小清水町に購入した一軒家を、大工さんや知り合いの方の協力を得ながら自分たちで改装している真っ只中でした。
「農家さんの手伝いをすれば、作物の実り方や土の作り方、農薬の使い方など、農家さんがいかに工夫や努力を重ねているのかわかる。漁師さんの船に乗せてもらうと、どんな魚が獲れて、どんな面で命がけなのかがわかる。食べ物が自分たちの口に入るまでの経緯が学べます。大工さんから家づくりを教えてもらうと、心地よい家の理由が見えてくる。もともと“知りたい欲”があるので、ここでの暮らしは体験しながら学べる環境だと思います」。一次産業が近い生活はとても心地よく、安心して暮らせると夫妻は口を揃えます。

作品は、暮らしの中からも生まれています。2025年5月28日(水)~6月24日(火)の期間に行われる7階ライフスタイル雑貨イベントの出展時には、渡り鳥の中継地として知られる小清水町内の濤沸湖を、“野鳥の遊園地”に見立てた新作も登場するそうです!
カルルスさんが目指すのは、絵本を読む人が自然と学びを得られる作品づくり。
「生活の中にある、楽しみや切なさを表現していきたいと思います。私たちは毎日生きていて、辛いことも含めて生活なのだと思うから。そしていつか、出産のお祝いで配る赤ちゃん絵本や、入学時のワクワク感を伝えられるような絵本を作りたいと思っています」。
教師から作家へ肩書きは変わっても、子どもの成長を見守る眼差しは変わりません。
6月14日(土)〜24日(火)の期間には、カルルスさん夫妻もご来場してくださいます。原画に隠された裏話を聞きに、みなさんも遊びにいらしてくださいね。

※本記事の情報は、2025年5月のものです。