
岡崎 実央 アーティスト
プロレスとアートと仲間が好きだから
「仲間の仲間、友だちや私より若い人、まわりの人が喜ぶことがしたくて」。そう話すのは、画家の岡崎実央さん。ピカソやブラックなどの画家も用いた、あらゆる視点をキャンバスに集約させる「キュビズム」から成る描き方で、プロレスをはじめ、さまざまなスポーツや音楽などをモチーフにした作品を生み出しています。大丸札幌店で開催した『D-art,ART』で作品を展示した時には「地元の親戚や家族、みんなが来てくれて、絵を通して人と会えるのがとにかく嬉しかった」と笑顔で振り返ります。力強くてどこか繊細、かつ、やわらかい。“寛容さ”を感じずにはいられない岡崎さんの創作の原点を、新たな展示を目前に控えた2024年9月にインタビューしました。

ご自身の作品や好きなことについて話すときの表情がキラキラしていて素敵だなあと感じました。6日(日)には催事にご来場されるので、プロレス好きの方も、これから好きになるかも!?な方も、ぜひ作品への思いを聞きにお越しください!
岡崎 実央 おかざき みお2>
アーティスト
1995年北海道札幌生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、株式会社ベース・ボールマガジン社『週刊プロレス』編集部に就職。アートとプロレスをかけ合わせた不定期連載『闘藝』を担当。現在は退職し、プロレスをモチーフとした作品を多く制作している。

絵を描くようになったきっかけ
札幌市出身の岡崎実央さんは、小さい頃から絵も音楽も好きだったそう。「ピアノやクラリネットもやっていたので、友だちには『絵の世界に行くとは思わなかった』と驚かれます(笑)。19歳まで札幌にいて、武蔵野美術大学視覚デザイン学科に進学してからは、プロレス好きを活かして、さまざまな表現に取り組んでいました。何かを伝える手段としてグラフィックや絵を用いることはあっても、今のようにキャンバスに絵を描くことはほとんどありませんでしたが。そして、いざ就活を始めると、なかなかうまくいかず、ついにはグレました(笑)」。
プロレスの世界に行けば「アートの分野で就職した方がいいよ」と言われ、就活では「好きなプロレスの世界に貢献したほうがいい」と言われ、なかなか自分の将来を見つけられずに葛藤していた頃、本格的に絵を描き始めるきっかけに出会います。
「卒業制作で『とにかくデカい絵を描きます!』と宣言しました。教授に相談したら、ピカソやブラックの本を手渡されて。1週間後に卒業認定試験のプレゼンというタイミング。とにかく読み始めたら、あらゆる視点をひとつのキャンバスに落とし込む『キュビズム』を知って、『あれ、ちょっと待てよ。プロレスはまさにリングの四方からの視点があって、それを絵にしたらおもしろいんじゃないか』とひらめいたんです。卒業認定試験では、白紙のキャンバスを持って行って『プロレスを題材にキュビズムでデカい絵を描きます』と言い切って合格。就活は全然うまく行っていなかったですが、『腐っても美大生だから』と絵を描き始めました」。
こうして卒業制作をきっかけに絵を描くようになった岡崎さん。卒業認定試験の少し前には、就職先も決まり、新たな道が開き始めます。
「卒業認定試験より少し前、『週刊プロレス』2000号記念を読んでいたら“契約社員募集”の文字が目に飛び込んできて。応募したら、拍子抜けするくらい、すんなり採用決定(笑)。卒業してからは、絵を描くことも少しだけ続けていましたが、視覚情報を言語にする記者の仕事に悪戦苦闘の記者生活でした。でも、大好きなプロレスを通して、知り合いが増えていきました」。
そんなある日、プロレスの絵を描く画家の森博幸さんのグループ展に行くことに。
「そこで森さんに私の卒制の絵を見ていただいたら『一緒に展示をやったら、おもしろそうですね』と誘っていただいて、プロレスがテーマのグループ展に参加することに。そこから再びしっかり絵を描くようになりました。次第に賞をいただいたり海外からSNSでオーダーが入ったりして『あ、自分の作品、需要があるのかも』と嬉しくなって。それが2020年から2021年頃ですかね」。
大好きなプロレスを軸に、記者と画家の人生が動き始めます。次第に「20代のうちに、海外の空気を吸っておきたい」と思うようになった岡崎さんは、知人の紹介でホームステイ先を見つけ、2021年の秋からアメリカに渡ります。
「表現の自由さにも感化されましたし、好きなものを好きなように着るファッションの楽しみ方やスタンスが好きでした。そうこうしているうちに、今年で29歳かあ(笑)。私が好きな画家の五木田智央さん曰く『29歳ブレイク説』というのがあって。ブレイク…とまでは行かず少し焦りますが、こうして続けていられるので、ありがたい限りです」と笑顔で話しました。


グレーを許容する大切さ
“岡崎さんはプロレスのどんなところが好きですか?”とまっすぐ訊ねてみると、遠慮気味に話しました。
「いろんな見方があるので、私がプロレスを語るのはおそれ多いですが……スポーツでもゲームでも、勝つことが目標だと思うんです。もちろんプロレスにも勝敗はありますが、プロレスはお客さんを盛り上げることが一番大切なんです。このプロレスにしかないエンタメ性が私は好きです。勝っても負けても、その先には成長のストーリー、人情物語もあって。元プロレスラーの武藤敬司さんは『ゴールのないマラソン』とおっしゃっていましたが、勝負に白黒つけて終わらないのがプロレス。今は、何事も白黒つけたがる風潮があったりもするじゃないですか。でも本当は、分断できないグレーな部分があって、グレーを許容することも大事なんじゃないかなと思うんです。そんな思いは、作風や色使いにも影響しています」。

作風のこと、絵が導いてくれる人との出会い
白黒分けて“分かった”と終止符を打てないことも許容する。岡崎さんの作品を初めて見た時、やわらかな寛容さを感じたのは、岡崎さんの姿勢に影響されたのかもしれません。続けて、創作と向き合う喜びを岡崎さんは話します。
「これからは、もっともっと色々な表現をしてみたいですが、常に創作の苦しみはありますね。テレビプロデューサーの佐久間宣行さんが配信か何かで『小説家と画家は孤独だ』みたいな話をされていてましたが、本当にその通りで、創作中は確かに孤独を感じます(笑)。でも、描き終わると次は、絵を通して人との出会いが待っている。それが創作のモチベーションになります。初めて家に飾るアートとして私の作品を迎えていただいたり、若い子が私の作品を通してアートの世界に興味を持つようになったり。そういうことが素直に嬉しいです」。
展示に寄せて
展示をきっかけに各地を巡ることを「凱旋」と、笑顔で言う岡崎さんに展示への思いをお聞きしました。
「大丸札幌には、小さい頃から家族とよく行っていて、一緒に食材を買ったりケーキを食べに行ったり、親しみのある場所ですから、展示ができてとても光栄です。ギャラリーで世界観をつくって展示するのもいいですが、百貨店という間口の広い場での展示は、家族も親戚も、恩師や友だちも、気軽に足を運べるようで、みんなこぞって観に来てくれます。久しぶりの人たちに会えるので、今回の凱旋も楽しみです(笑)」。

とにかく、人に喜んでもらえることがしたい
最後に、“これからの目標は?”とお聞きすると、「とにかく健康的に生きること」ときっぱり答える岡崎さんは続けます。
「あと、私、友だちへのプレゼントとか、人に喜んでもらえることをやりたくなってしまう性格で。友だちのレスラーのグッズをプロデュースしたり、仲間の仲間や、若い人のためのデザイン仕事をしたり、自分より下の世代のためにできることは全部やりたい。お金を優先するのではなく、単純に応援したいじゃないですか。私が役に立てることはそういうことですし。見返りなんて求めてなくて、喜んでもらえることがとにかく嬉しい。そうやって、あまりお金にならないような仕事もついつい優先してしまうので、自分の首を絞めることにはなりますが……(笑)」。
創作と格闘する力強さも、あらゆる視点を集約させる繊細な表現力も、人を思うやさしさも。岡崎さんの絵から感じた寛容さの理由はここにありました。利を先に求めずに、義を重んじること。まさに大丸創業の理念「先義後利(せんぎこうり)」を体現するような人ですねと話すと「え、あ、そういう言葉があるんですね。人に喜んでもらえることを続けていきたいです(笑)」と潤いに満ちた目で未来を見つめていました。
※本記事の情報は、2024年9月のものです。