百花の人
023

小林こばやし 啓太けいた 株式会社パルコ

時代の価値観と当たり前に対して、常に疑問を持ち続けたい

百花POINT

「大丸札幌店の記事なのに、札幌パルコ?」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。イメージも社風も違う店ではありますが、実は、パルコと大丸松坂屋はJ.フロント リテイリンググループに属している仲間の会社。2025年8月24日に50周年を迎えた札幌パルコは、大丸札幌店にとって大先輩でもあります。ファッションビルと百貨店、大通と札幌という違いがあるからこそ、お互いの長所を生かしてタッグを組んだらおもしろいことができるかも! そんな思いで、一緒に取り組めることを探し始めたばかり。その一つが、札幌パルコ50周年記念イベントの一環として、2025年10月4日(土)〜11月10(月)日まで札幌パルコで開催される、北海道出身の国際的デザイナー・彫刻家の五十嵐威暢さんの「A-Z Homage to Takenobu Igarashi」という展示企画です。大丸札幌店は2025年2月にお亡くなりになった五十嵐威暢さんとその作品への深い敬意を表して、大丸百花祭の期間中、1階フロアにて五十嵐さんが制作した「PARCOロゴ」から派生して誕生した「D」のオブジェを飾ります。今回は、このイベントを企画し、春から続く札幌パルコ50周年企画すべてを統括している株式会社パルコの小林啓太さんに話を伺いました。

取材者:大丸札幌店 船岡未弥子

PROFILE

小林 啓太 こばやし けいた

株式会社パルコ 札幌店勤務

東京出身、37歳。青山学院大学経営学部卒業後、株式会社パルコ入社。宇都宮パルコ(2019年閉店)にて店頭や屋上でのイベントを担当後、本社宣伝部に配属。主に渋谷パルコ前のイベントスペースを利用したメディア運用、池袋パルコの屋外大型ビジョンの新設などを担当する。建て替えに伴う渋谷パルコ開店準備室を経て、再び本社宣伝部で全国パルコでのキャンペーンや外部企業とのタイアップを担当。2024年9月に札幌パルコへ着任。札幌パルコ開業50周年キャンペーンではすべての企画を統括。

15万人が集まった
札幌パルコ開店の日

「札幌パルコ50周年を、『今までありがとう』のお礼だけにせず、『これからもよろしくね』と前を向くキャンペーンにしたいと思っていたんです」と話すのは、小林啓太さん。株式会社パルコに勤務し、札幌パルコ50周年キャンペーンを統括する立場で、2025年にさまざまな企画を実現してきた仕掛け人です。

50周年のニュースは、2025年8月24日に南一条通りで開かれた「Anniversary Party」や、札幌パルコ正面入口横の外壁ショーウインドウに展示されている五十嵐威暢さんの「P」のネオンサインなどを通してお気づきになった方も多いのではないでしょうか。

大通の中心に札幌パルコが誕生したのは、1975年8月24日のこと。池袋、渋谷に次ぐ、初の地方出店となったオープン初日の入店客数は、なんと15万人!「女たちよ、大志を抱け!」という情熱的なオープン告知ポスターに導かれるように、開店を待ちわびたお客さまの熱気の中で札幌パルコは誕生しました。以来50年、ファッションやアートシーンにおける若者文化の先端を走り続けてきた存在。私たち大丸札幌店のスタッフ一人ひとりに、若き日の思い出が重なる場所でもあります。

50周年という節目を祝い、これから札幌パルコが向かうべき未来へのメッセージ発信を託されたのが小林さんです。新卒の22歳で入社したのが15年前。

「ゼロからプラスになる仕事、服や音楽、食で世の中をハッピーにしていく仕事がしたいと思っていました。パルコを選んだのは、他の商業施設と比べて攻めているというか、尖っているイメージがあったからです」

今は閉店した宇都宮パルコや本社宣伝部、建て替えに伴う渋谷パルコ開店準備室などを経て、2024年9月に希望を出した札幌パルコへ異動。パルコの象徴でもある渋谷パルコのイベントスペースを企業に貸し出して、イベントを実現するための調整や、広告、展覧会、キャンペーン企画によって店とお客さまを繋ぐ機会を創出するなど、さまざまな立場で、私たちが外から見るパルコのイメージを創り出すブランディングやお客さまと店を繋ぐプロモーションに携わってきたそうです。

宇都宮パルコや本社宣伝部で経験を積んだ小林さんは、渋谷パルコ建て替えにあたる開業準備室の公募に自ら応募。すべての店舗の中でもアイデンティティー的存在である渋谷パルコの建て替えにあたり、「パルコとは?」という本質を探るために、社内外や著名人の方へのインタビューやチーム内での打ち合わせを何度も行ったりしたそうです。

誰かの人生の転機になる
そんな仕事に取り組みたい

「パルコは、新しい価値を提案できる会社だと思っています。有名無名関係なく、王道ではないけれど、新しいこと、おもしろそうなこと、ちょっぴりやんちゃなことにも挑戦できる。A面だけじゃなくて、B面を表現できる会社だなと」

「世の中のみんなが向いている方を、本当にそっち?と言える会社であり、言うべき会社でなければ」と話す小林さんが教えてくれたのは、1973年の渋谷パルコオープン時に、アートディレクターの石岡瑛子さんが手がけたポスターのエピソードです。

「2枚のポスターで展開しているのですが、一枚は赤いドレスを纏った黒人女性がドーベルマンを抱えているビジュアル。もう一枚は、白い服を着た白人男性が優しくヤギを抱く姿のビジュアルです。1973年当時は、まだ女性の社会進出も少なく、男女雇用機会均等法もない時代。つまり、社会がイメージする女性像とは真逆なんですね。多様な価値観を受容し提案する企業姿勢に、パルコらしさを感じられる作品です」

「時代の価値観や当たり前に対して、疑問を持つようにしています。例えば、最近では便利な時代にあえて不便を選ぶような傾向がありますよね。高画質で撮り直しができるスマホがあるのにインスタントカメラ、場所を選ばずきれいな音源を聞けるのにレコード、手ごろな既製品があるのに手作りをしたり。こういった流れの背景にはどんな感情があるのか、どこへ向かおうとしているのかなどを考えたりしています」と小林さん。

ファッションやアートという表現を通して、新しい価値観を提示してきた会社だからこそ、どの時代も感受性豊かな若者たちが集い、かつて若者だった大人の思い出を鮮やかに彩り続けているのかもしれません。

「漠然としていて壮大ではあるけれど……。世の中に新しい価値観を提示したり、誰かの心を動かしたりする仕事をしてみたいと思っています。『パルコで買った本を読んだからアートの道に進みました』『このイベントに参加したから音楽やろうと思いました』。そういう声が届くんです。20年後とかに、『あの広告がかっこよかったからデザインの道に進みました』って人と一緒に仕事ができたら、めちゃくちゃうれしいですよね。モノを売るだけでなく、誰かの人生にインパクトを残し、プラスになる転機に関われたら、自分が働いていた意味を実感できるはず」と、熱い思いを教えてくれた小林さん。

取材現場では、話に聞き入っていた30代の取材スタッフたちが、小林さんの思いに呼応するように仕事への思いを明かす姿が印象的でした。札幌パルコと大丸札幌店では個性が違っても、目指す先は一緒なのだと再認識する時間になったのかもしれません。

小林さんの話を聞いて、「百花祭の企画も、誰かが羽ばたいていくきっかけになってほしいですし、いずれはあの催事に出たいと思ってもらえるイベントにすることが目標です!」と共感する船岡。『パルコのセンスと百貨店のクオリティー』を合言葉に動き出した企画の一つが、五十嵐威暢さんのイベントです。

思わぬ規模に拡大した
五十嵐威暢さんの展示

札幌パルコ50周年のキービジュアル「Pは動き続ける」の広告制作や、新聞折り込みチラシ、webサイトに隠された謎解き。札幌のクラフトビール醸造所「Streetlight Brewing」とコラボレーションした記念ビール。50周年キャンペーンには、さまざまな仕掛けが盛り込まれています。

中でも大きな出来事は、北海道出身の国際的デザイナー・彫刻家である五十嵐威暢さんが手がけた「PARCOロゴ」の実物ネオンサインの展示や、2025年10月4日から「A-Z Homage to Takenobu Igarashi」という企画展が決まったことだと小林さんは力を込めます。

「五十嵐さんが手がけたPARCOのロゴは、1981年に渋谷パルコパート3がオープンする際に作ってくださったもの。オフィシャルな企業ロゴは、通称『ヒゲロゴ』と呼ばれる別のものがありますが、五十嵐さんのロゴは、僕らにとってのパルコらしさであり、アイデンティティーともいえる存在です」

五十嵐威暢さんのロゴは、50周年の限定アイテムとしてラグやクッキーにもなりました。一文字で、パルコとわかるデザインです。

時が経っても古びて見えないのは、普遍性があって強いデザインだから。あまりにも神聖な存在すぎて、これまで社内の企画に用いることはほとんどできなかったといいます。

「五十嵐威暢さんは北海道・滝川市のご出身。50周年の節目の年に、五十嵐さんの企画をやらせてほしいと上司に直談判したら、僕に託してくれたんです。お声かけした五十嵐威暢さんの事務所も、当時は入院されていた五十嵐威暢さんも前向きに受け止めてくれて。奇跡に奇跡が重なって、想像以上の規模の企画になりました」

残念ながら五十嵐威暢さんは、2025年2月にお亡くなりになりました。しかし、札幌パルコ正面のショーウインドウを彩っている「PARCOロゴ」のネオンサインは、多くの人を魅了し続けています。

札幌パルコでは、10月4日(土)〜11月10日(月)まで、「A-Z Homage to Takenobu Igarashi」を開催。大丸札幌店は五十嵐威暢さんと作品への深い敬意を表して、大丸百花祭の期間中、1階フロアにて五十嵐さんが制作した「PARCOロゴ」から派生して誕生した「D」のオブジェを飾ります。

年代を問わずにご覧いただきたい展示です。ぜひ皆さんも、小林さんの思いから実現した展示と共にパルコの思い出をたどり、大通と札幌をハシゴしてお楽しみください。

五十嵐威暢さんが手がけたネオンサインは2025年11月10日(月)まで札幌パルコ正面のショーウインドウに展示・点灯されます。このネオンサインは、実際に松本パルコで使用されていたものです。

※本記事の情報は、2025年8月のものです。

札幌パルコ
住所:〒060-0061 北海道札幌市中央区南1条西3丁目3
営業時間:不定休 全館 10:00〜20:00(8階レストラン 11:00〜22:45)
HP:https://sapporo.parco.jp/(※別サイトに遷移します)
▶︎PARCO×五十嵐威暢「A-Z Homage to Takenobu Igarashi」展 特設サイト

Events

《大丸百花祭》
札幌パルコ 50周年記念コラボ
「D」が「P」をお祝い!

開催日時:10月8日(水)〜21日(火)
場所:大丸札幌店 1階イベントスペース

北海道出身のデザイナー・彫刻家 五十嵐威暢氏が、PARCOのロゴとしてデザインした通称"五十嵐ロゴ”を基に、新たに生まれたアルファベット「D」のオブジェがが大丸札幌店に登場!

企画取材:船岡未弥子 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:髙田美奈子