河野 理恵 Liaison
大地の鼓動と、4万年の時をまとう。札幌軟石のアクセサリー
建物の外壁や住宅の外構、商業施設の内装などで目にする札幌軟石。大丸札幌店6階のグリーンパティオにも使われているこの石は、斑模様のニュアンスとマットな質感が、木材や金属、革などの素材に馴染む天然の岩石です。明治の開拓期から耐火性のある建材として注目され、町づくりを支えてきた札幌軟石だけに、建材としての印象が強いこの素材を使って、アクセサリーやオブジェにしているのがLiaison(リエゾン)を主宰する河野理恵さんです。一つとして同じ柄がない天然石のアイテムは、凛としながらもやさしい風合いが特徴。顔周りのアクセサリーやインテリアとしても自然に馴染みます。地球の成り立ちや開拓の歴史とも深くかかわる札幌軟石の魅力を、もっと知ってほしいとの思いで活動の幅を広げる河野さん。まだ私たちが知らない札幌の魅力があること、そして私たち大丸札幌店も店頭という場を通して「暮らしている町の魅力を多くの人に伝えていきたい」とあらためて感じる取材になりました。
取材者:大丸札幌店 藤尾智美・梅村樹李
河野 理恵 かわの りえ2>
Liaison
札幌市出身、46歳。カメラマンを目指してテレビ・放送の専門学校で学んだ後、テレビ制作会社に就職。テレビディレクターとして北海道の情報番組制作などに携わった後に芸能事務所へ転職し、マネジャーや動画映像制作などに取り組む。退職後の2019年にLiaison(リエゾン)を立ち上げ、作品を通して札幌軟石の魅力を発信中。
火砕流が生み出した
一点物のアクセサリー
「札幌軟石の模様は、4万年前の石や炭化した木材が混ざり合ってできているんですよ」
そう言って石の表面を見せてくれたのは、Liaison(リエゾン)を主宰する河野理恵さんです。軟石の断面をのぞくと、明るいグレーの中で白や濃いグレー、ベージュ色の小さな混入物が斑模様を描いていました。
河野さんは、この札幌軟石を使ったアクセサリーやインテリア雑貨、ホテルや飲食店の装飾オブジェ、化粧品会社の香水の試香ツールまで、作品の幅を広げている作家です。
大通公園の西端にある「札幌市資料館(旧札幌控訴院)」や、南区石山にある「ぽすとかん(旧石山郵便局)」。札幌中心部の教会などの歴史的建造物にも使われている札幌軟石の成り立ちは、今から約4万年前にさかのぼります。
札幌軟石は、支笏火山の大規模な噴火活動によって発生した火砕流が札幌周辺まで流れ込み、冷えて固まった「溶結凝灰岩」です。独特の斑模様は、火砕流が木や石を巻き込みながら冷え固まった痕跡。ちなみに、この噴火によって陥没した凹地に水がたまって誕生したのが、カルデラ湖として知られる支笏湖です。
さらに札幌軟石は、北海道の開拓の歴史とも深い結びつきがあります。
開拓初期の木造建築は寒さが厳しく、火の使用による火災も多く発生しました。そこで注目されたのが、豊平川上流で採れ、加工しやすく耐火性にも優れた溶結凝灰岩だったそう。1875年(明治8)頃から本格的に切り出しが始まり、1909年(明治42)には馬車鉄道によって札幌中心部まで運搬されるように。その線路跡が、現在の南区と中央区を結ぶ石山通になりました。
札幌軟石の成り立ちや札幌の発展を支えてきた歴史を知ると、それまで味わい深い素材として見えていた石が、壮大な歴史を留める存在へと変わって見えてきませんか?
「切り出された石は一つとして同じ模様がありません。切り口によって表情が変わることも魅力のひとつ。この小さな軽石や炭化した木が入り込んでいる様子に、4万年前と混ざり合っている感覚を覚えるんです」
時代を超えて、いま耳元で揺れるピアスに閉じこめられているのは悠久の歴史。これまで建材として使われる印象が強かった札幌軟石をアクセサリーにする発想は、一体どこから生まれたのでしょうか。
同じジャンルでは勝負できない
そんな思いの末に辿り着いた“石”
かつては、札幌でテレビディレクターとして番組制作に携わり、その後は芸能事務所のスタッフとして働いていた河野さん。
「テレビの番組制作をしていた頃は、作り手の方を取材させていただく機会が多くありました。素敵な方ばかりでしたから、『ものづくりっていいな』という気持ちはどこかにあったのだと思います」
その後に勤めた芸能事務所で学んだのは、北海道の魅力を、楽しくおもしろく伝えること。2つの仕事を経て、自分自身もものづくりをしたいという気持ちはフツフツと膨らんでいく一方だったそうです。加えて、子どもが生まれたら家でできる仕事をしたいという思いもありました。
「作家として活躍する方々と出会い、そのクオリティの高さを目の当たりにしていたからこそ、今から皆さんと同じ素材で勝負するのは難しいとも思いました」
素材が見つからないまま、1年ほどが経った頃。転機は、札幌駅前通地下広場「チ・カ・ホ」で訪れます。
「東海大学札幌キャンパスの学生さんが展示していた、札幌軟石のセロハンテープ台や鍋敷きに出合って。それまで建材としてしか見ていなかった石が、小さな作品に姿を変えていて、『石から、こんな作品が生まれるんだ』と衝撃を受けました」
とはいえ、加工方法はわかりません。軟石で小物を加工する店を札幌市内に1軒だけ見つけた店を河野さんは訪ねます。工房を見学しても加工中に出る石粉の量に驚いて諦めてしまう人が多いという中、好奇心の方が勝った河野さんは、その後も試作づくりに挑戦して見てもらうまでに。それが、師匠と仰ぐ「軟石や」さんとの出会いになりました。
最初の壁は、アクセサリーに使うほど石を小さく切るための機材がなかったこと。試行錯誤の末に辿り着いたのは、木材を切る機械に精密機械の加工などに用いるダイヤモンドカッターの刃を付ける方法でした。最初はガタガタにしか切れなかった石を納得する形に切れるようになるまでに、さらに一年近くを要したそうです。
「札幌軟石を身近に感じてもらうためにアクセサリーを選びましたが、建材としてのメリットである軟らかさは、小さく薄く加工するうえでは脆さなんです。加工の技術を磨きながら背景を調べていくうちに、札幌軟石は北海道開拓の歴史とも深く関わっていることを知りました」
石との出合いをきっかけに歴史を知った河野さんは、アクセサリーを通して札幌軟石やまちの物語を伝えていきたいという思いを深めます。
フランス語で「つなぐ」を意味するLiaison(リエゾン)に、名前の理恵「リエ」、蝦夷地のエゾの意味を込めたブランドを立ち上げたのが、2019年のことでした。
端材まで無駄なく使うために
新しいアイデアも生まれて
「最初は、『河原の石じゃないの?』なんて反応もありました。でも、Liaisonを立ち上げて年を重ねるうちに、札幌軟石を知っている方が増えてきたことを実感しています」
札幌軟石の魅力は各分野へと広がり、近年は採掘量も増えるなど、その存在感はますます高まっています。
また、異素材と組み合わせても馴染むのが、札幌軟石のおもしろさ。作品には、色合いがきれいなエンジュ、木目が美しいセンノキといった北海道産の木材や、エゾシカの革も使われています。
「駆除するエジシカの革を、大切に使うための活動などに取り組む『NPO法人ezorock』さんから仕入れています。これから合わせてみたいのは、留辺蘂でリサイクルされている廃蛍光灯リサイクルガラス原料の『エコピリカ』です」
異素材や端材活用のアイデアは、さまざまな作家との出会いが縁になることも多いのだとか。
「加工中に出る石粉も、『使ってみたい』と言ってくださる作家さんがいるんです。絵の具や釉薬、漆やガラス、キャンドルの原料に混ぜてみたいと、声をかけていただく機会も増えました」。
廃棄せざるをえない石粉が、視点を変えれば新たな素材になることも作家同士が繋がるおもしろさ。蘭越町の木工房「湯ノ里デスク」の木工作品から出た端材を譲り受け、端材を生かすという条件の中から新しいアイデアが生まれることもあるそうです。これから挑戦してみたいのは、大きなオブジェ。
「札幌軟石を通して、北海道という大地の魅力や面白さに気づきました。Liaisonのアクセサリーをきっかけに、街歩きのなかで札幌軟石に目が留まったり、そこから会話が広がったりしてくれたらうれしいです」
※本記事の情報は、2025年12月のものです。
Events

Liaison出店日のお知らせ
日時:2026年2月17日(火)〜24日(火)
会場:大丸札幌店 7階ライフスタイル雑貨売場
Liaisonのアクセサリーや雑貨を直にご覧いただけます。ぜひお立ち寄りください!
































