百花の人
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高橋たかはし 秀寿ひでとし 高橋工芸

職人のまち旭川で ろくろ挽きから生まれる 暮らしの器

百花POINT

“それぞれの風土と歴史あるまちで真摯な「手仕事」によって生み出されたモノたち”が、日本各地から集まる『つながる暮らしのマーケット』。2023年からスタートし、毎年好評いただいているイベントが今年も6月18日(水)〜23日(月)に開催されます。北海道・旭川市から出展してくださるのが、紙のように薄い木の器、「Kamiグラス」で知られる高橋工芸です。代表の高橋秀寿さんは、先代のお父さまからろくろ挽きの技術を継いだ2代目。木材を回転させながら削るろくろ挽きの技を、現代の生活に馴染むデザインに昇華させた器は、どれも美しく、軽く、手にも熱さが伝わらず、そしてなにより長持ちすることが大きな魅力。高橋工芸の器は、美しさと実用性を兼ね備えた生活の中にある器なんです!日常を素敵に彩ってくれる器がどのようにして生まれているのか教えてもらいに、石狩川のほとりにある工房を訪ねました。

取材者:大丸札幌店 千葉美奈子

PROFILE

高橋 秀寿 たかはし ひでとし

高橋工芸代表

北海道旭川出身。56歳。建築会社に勤務した後、1992年に父親が経営していた高橋工芸に入社し、2009年に2代目として会社を継ぐ。デザイナーの大治将典氏、小野里奈氏と共に、「Kami」「Cara」「Kakudo」など、シリーズで展開する木製のテーブルウェアを制作。故郷である北海道からの発信を大切にした材料選びや、コンセプトを意識したものづくりに取り組む。木材を回転させて製品を削り出す、“ろくろ挽き”の技術で究極の薄さを実現した「Kamiグラス」は、国内外にファンがいる代表作。

おがくずまでまるごと有効活用
製材から始まる木工の仕事

木工のまち、家具のまちとして知られる旭川市の高橋工芸を訪ねたのは5月の中旬。木の香りに満ちた工房は、角材から器のベースを切り出す作業の真っ只中でした。

「15%程度の水分量まで屋外で天然乾燥した角材をカットして、製品のベースを作ります。粗削りしたら天井裏に並べて8%ほどの水分量まで乾燥させるために、夏でも朝だけは端材やおがくずを燃やして暖房をつけるんです」と教えてくれたのは、高橋工芸代表の高橋秀寿さん。

まさに木は生き物。木工品づくりは木を削る加工だけではなく、工程に応じてゆっくりと木の水分量を減らしていく材料づくりから始まるのだと実感しました。

高橋工芸は、先代である父親の昭一さんが1965年に開いた木工製作所です。“ろくろ”または“旋盤”と呼ばれる木工機械で木材を回転させながら、バイトという切削道具で削り出す“ろくろ挽き”の技術で、60年に渡って木工製品を作り続けてきました。建設会社で3年ほど現場監督を勤めた高橋さんが、高橋工芸に入社したのは22歳の時。

「朝から夕方まで親父が削った器をサンドペーパーで磨く。夕方になったらろくろを借りて、こけし人形を作る。カーブや直線があるこけし人形には、ろくろ挽きの技術が詰まっているんです」。見よう見まねで学び、3年ほどかけて一通りの技術を修得。

木工製品を作りながら営業も行っていた高橋さんは、ライフスタイルの変化や、北海道土産が工芸品からお菓子へ移り変わっている気配を感じ取ります。このままではいけないという危機感から2005年に誕生したのが、代表作となるKamiグラスでした。

写真は、北海道産のセンの木を削り出して作る薄さが特徴の「Kami」。ほかに、北海道産のシナの木をたまご形に削り出した、手触りもやさしい「Cara」。角を角丸に仕上げ、さまざまな角度から生まれる木の道具「Kakudo」。そして先代から続くロングセラー、北海道産のエンジュの木から生まれる「Enju」のシリーズがあります。

先代から続くろくろ挽きの技で
デザイナーのイメージを実現

「削ったばかりは、軟らかいんですよ」と差し出してくださったのは、削りたてのKamiグラス。恐る恐る手に力を入れると、なんと木の器がたわむではありませんか!ウレタン塗装で強度を上げる前は、“Kami=紙”の名前のとおり、しなるほどの軟らかさ。薄さの極限を追求した作品であることがわかります。

中心をくり抜いて荒削りした木材の表面に刃物をあてながら、指先の感覚を頼りに、迷いなく一気に削り出す様子は圧巻です。木材を左右に動かすハンドル操作は脚。体全体を使って繊細な作業が進むことに驚きました。

「『曲げわっぱのような薄さを、ろくろ挽きで出来たらおもしろいね』というアイデアから生まれたのが、Kamiグラスです。均一な薄さに削り出すために、木工バイトの刃物そのものを調整するまで1年半ほどかかりました」。当時は、細かい設計図がなくても、あうんの呼吸で手直ししてくれる頼もしい刃物職人がいたそうです。

ろくろ挽きによってグラス側面の斜めの角度をつける最終工程。口をつける器のフチの厚さは1ミリほど。そこから3ミリほどの土台まで厚みを変化させて削り出します。円柱形の木材が、一気にKamiグラスに生まれ変わる瞬間。

木工業のまちは、職人のまち。切削道具を打ち出し加工してくれる刃物職人も含め、木工製品の中にはさまざまな職人の技術が隠れています。

「旭川の職人はライバルだけど仲がいい。『うちじゃできないけれど、あそこの会社ならできると思うよ』なんて仕事を回し合ったりしてね」という横つながりは、他の木工産地の職人さんに驚かれる関係性なのだとか。

製品を支えるプロの力は他にもあります。Kamiグラスが生まれたのちに、2名のデザイナーとタッグを組んで商品開発を始めたことも、高橋工芸にとっての大きな転機になりました。

「作り手の自分が考えると、作りづらいなとかリスクが高いなという理由で回避しそうな攻めたデザインを、デザイナーたちは考えてきます。作業が細かすぎて手が腱鞘炎になりそうなこともありますが、職人としてはやっぱり作ってしまうんですよね」と、高橋さんは笑います。

東京都内の有名なセレクトショップに置いてもらうイメージを具体的に想定し、店頭での商品の見せ方までを作り込み。展示会には什器まで用意して提案することで、取り引き先が広がったそうです。「製品づくりだけでなく、伝え方まで考えていらっしゃることに驚きました」と、店内の空間装飾を担当している千葉は話に興味津々です。

東京へ向けた目を地元に戻し
木材はすべて北海道産に

「商売をしていると、どうしてもマーケットが大きな東京を目指しがちです。東京に向けた目を、北海道に戻そうと思うようになりました」。

高橋工芸のファンでいてくれるデザイナーや応援してくれる人たちとの出会いを経て、北海道を中心に考えるようになったという高橋さんは、2023年に原料の木材すべてを北海道産にまとめます。

上川町の天然林を育てるために切り出した木を原料にして、木が育った場所まで遡れる製品づくりに取り組む「KAMIKAWA forest」の活動もそのひとつ。製材から乾燥までできる技術を備えた高橋工芸には、丸太一本から仕入れて加工できる強みがあります。

「異素材を組み合わせた新しいシリーズ開発に取り組みはじめたところです」と教えてくれた高橋さん。一体何を組み合わせるのか、完成が待ち遠しいですね!

『つながる暮らしのマーケット』には、高橋工芸の全シリーズ、全アイテムに加え、数量限定で製作してくださったKamiグラスのビッグサイズもお目見えします。シリーズを揃えて買い足すもよし、あえて別のシリーズを組み合わせるもよし。木目の美しさや手触りを体験しに、催事へ足をお運びください。

父親の昭一さんの跡を継いだ高橋工芸代表の高橋秀寿さん。隣りに工房を構える息子の直道さんは、ギターを作る職人です。工房を構える旭川は、木工のまち、家具のまち。天候や災害に左右されない産業を確立するための政策や、職人さんと企業の切磋琢磨によって主要地場産業へと発展を遂げた歴史があります。

※本記事の情報は、2025年5月のものです。

高橋工芸
住所:〒070-0055 北海道旭川市5条西9丁目2-5
HP:https://takahashikogei.com/

Events

つながる暮らしのマーケット

つながる暮らしのマーケット

開催期間:6月18日(水)〜23日(月)
場所:7階催事場

作る人の思いをつたえる、使う人とつながる。それぞれの風土と歴史あるまちで真摯な「手仕事」によって生み出されたものたちを揃えました。

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企画取材:千葉美奈子 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘