百花の人
百花の人038 マーク・ギャニオンさん
038

マーク・ ギャニオン GAGNON株式会社

手をかけて育てた、当別の森からいただく恵み。「北海道メープルシロップ」

百花POINT

ご紹介するマーク・ギャニオンさんの故郷はメープルシロップ産地として知られるカナダのケベック州。祖父も父も趣味でメープルシロップを採取し、家庭料理にも日常的に使っていたというほどメープルシロップは暮らしに身近な存在だったそうです。札幌市西区山の手のショップ「GAGNON(ギャニオン)」には、メープルシロップをはじめ、メープルシロップを使ったお菓子やソフトクリーム、マスタードなどが並び、多くのファンが訪れています。そんなマークさんが2023年から新たに挑戦しているのが、当別町の森で始めた「北海道メープルシロップ」づくり。5月中旬、『ディスカバリー北海道』6月10日(水)~16日(火)に登場する「北海道メープルシロップ」が生まれる森を、マークさんに案内していただきました。

取材者:大丸札幌店 藤尾智美

PROFILE

マーク・ギャニオン Marc Gagnon

GAGNON株式会社 代表取締役

59歳。カナダ・ケベック州出身。2005年に札幌市へ移住し、2007年にオープンした「GAGNON」(札幌市西区山の手)にて、カナダのメープル農家から直輸入したメープルシロップやメープルシロップを使ったスイーツなどを販売。2023年12月からスタートした「北海道メープル」の取り組みによって、当別産の「北海道メープルシロップ」を商品化。一般社団法人北海道メープル代表。

森を育みながら分け前をいただく
当別産のメープルシロップ

「北海道メープルシロップ」をつくり始めたマーク・ギャニオンさんに会うために私たちが向かったのは、当別町の森の入口にある「北海道メープルハウス」。ここは2月から3月に採取したメープルの樹液を煮詰める小さなファクトリーであり、春から夏にかけてマークさんが森の手入れをするための拠点です。

「ようこそ、いらっしゃい!メープルの森に行きましょう!」

私たちをはじける笑顔で迎えてくれたのは、マークさんとフラットコーテッド・レトリバー犬のサップ(10歳)。

「サップは私のシャドウ(影)」とマークさんが笑うほど、サップはいつもマークさんのそばにいます。たった一人で森に入る日も、サップは心強い相棒。時計を身に着けずに森へ入っても、ランチの時間はサップの“腹時計”が教えてくれます。ちなみにサップとは、英語で「樹液」を意味します。

愛車のJeepに乗せていただき、オフロードの作業道を進みます。自ら木を切り倒して橋を架ける、クマザサが生い茂る下草を刈りながら切り拓いたという道を右に左に大きく揺られながら進んだ先に広がっていたのは、色鮮やかな新芽がピカピカと輝き、ウグイスの鳴き声が響く命の勢いに満ちた春の森でした。

50年ほど手つかずのままだった当別の森は、樹液が採取できる樹齢30年以上のカエデの宝庫。しかし、クマザサが生い茂る森では、たとえ種が落ちても太陽の光が届かず、木が成長することはできません。

「私はこの森でメープルシロップをつくっています。でも、私が本当にやりたいのは森を守ること、そのためのお手伝いです。森の仕事はとても大変。でも、元気な森を育てるために掃除をすれば、赤ちゃんの木が生まれて森が育ちます。すごい疲れても、お手伝いできるとうれしい気持ちになります」

背丈以上の下草を刈り、朽ちた木や病気になった木を見極めて取り除きながら、適度に太陽の光が差し込み、風が巡る環境を整える。そして元気なカエデの木から、樹液という森の恵みを分けてもらう。朽ちた木をチェーンソーで切り倒す作業を見せていただきながら、「森を育てる」というマークさんの挑戦が、どれほど壮大で孤独で労力と時間を要することか、ほんの少しだけ想像できる気がしました。

「うれしい! ベイビーの木がたくさん出てきました。ここにも、あそこにも!」

下草を取り除き、適度に太陽の光が当たるようになった地面に芽吹いていたのは、カエデの実生(みしょう)です。くるくるとプロペラのように回転しながら落ちたカエデの種が、ひと冬を越して発芽したもの。2023年から始まったマークさんの取り組みは、しっかりと大地に根を張って森の時間を静かに刻み始めていました。

発芽したカエデの実生は、樹液が採れるようになるまでに約30年もの歳月を要します。マークさんは、作業道の上に芽吹いた実生を日当たりのよい場所へ移植し、さらに成長した苗木を森の中の適した場所へと植え替えられるよう、大切に育てています。

故郷ケベック州で培った
森の育て方、森と共にある生き方

「私の故郷は、ケベックの町から約60km離れた田舎です。家の周りにはメープルの森がありました。ツリーハウスをつくったり、カウボーイの真似をして遊んだり。軍の特殊部隊だった父親はとても力持ちで、私や兄は厳しいトレーニングみたいに森の掃除や仕事をしていました。けど、おもしろいね。今は森に行きたい、森の仕事がしたいと思います」

田舎の暮らしでは、釣りも狩猟も、メープルシロップづくりも、何でも自分たちでやるのが当たり前。狩猟頭数の制限といった自然を守るルールのもと、環境のバランスを保つために必要な手入れの知識や技術が自然と身に付く生活です。ケベック州の伝統料理である「森のパイ」の中身は豚肉や牛肉などの家畜ではなく、シカやクマ、ターキー、ウサギなどのジビエというエピソードからも、森と暮らしの深い関わりが垣間見えます。

ケベック州で過ごした子どもの頃の写真。相棒のセントバーナード犬は、森に行く時も一緒だったそう。

「5歳の頃から父親の友人に柔道を教わっていました。だからずっと日本に行きたかった」

大人になってからアジアを旅した際に、タイで出会ったのが札幌出身の奥さま。結婚を機に札幌へ移住し、当時はまだ日本語が話せなかったマークさんが始めたのが、故郷ケベック州のメープルシロップを直輸入して販売する仕事でした。

「結婚式の日に、父親が持ってきてくれた自家製メープルシロップの評判がとてもよかった。土地のお酒や食べ物に誇りを持つ日本人のように、私もケベックのメープルシロップを誰かに紹介したいと思った。だからカナダで勉強し、札幌でメープルシロップの販売を始めました」

カナダの国旗に描かれているのは、サトウカエデの葉。国土の中でも、故郷のケベック州やオンタリオ州はメープルシロップの主要産地で、世界で流通する70%以上をケベック州産が占めています。

「北海道は、ケベック州とよく似ています。森に行くとカエデがある!公園に行くとカエデがある!!北海道や日本には、いっぱいカエデの木があります」

メープルシロップの販売をする傍ら、道内各地でメープルシロップづくりの技術指導を行ってきたマークさん。いつしか「自分もメープルシロップの森を育てたい」と思いがふくらみ、カエデの森を探し歩くなかで出会ったのが、樹液が採れる樹齢30年以上のカエデが多い札幌市の隣町、当別町の森でした。

木に結ばれたリボンは、樹液を採取するカエデの目印。春から夏は森の手入れを行い、2月から3月中旬にかけて木にドリルで小さな穴を開け、タップと呼ばれる蛇口を取り付けて樹液を採取します。バケツに樹液を集める伝統的な方法は、スノーモービルで山を上り下りして運ぶ大変な重労働です。現在はその方法も残しつつ、星座を結ぶ線のように、山の上から麓へ向かってカエデの木同士をチューブでつなぎ、樹液を麓のタンクへ集める仕組みも取り入れています。1本のカエデの木から3年間続けて樹液を採取。タップ穴の位置は毎年変えて、開けた穴は木の治癒力によって自然に塞がるのを待ちます。

北海道メープルシロップは
豊かな森を育てるための手段

当別産の「北海道メープルシロップ」は、体にすっと染み入る軽やかさと、甘さの中にほのかなほろ苦さを感じるような、奥行きのある味わいが魅力です。記憶の中にある一般的なメープルシロップのイメージを覆す味わいに、試食をさせてもらった取材スタッフ全員から驚きの声が上がりました。ケベック産と当別産でも、風味がまったく異なります。

「ワインのテロワールと同じです。樹液が採れる土地、カエデの種類、シロップを煮詰める作り手、そして薪・ガス・電気といった煮詰め方の違い。たくさんの理由から味はすべて違います」

樹液を採取するのは、イタヤカエデとウチワカエデの2種類。2月から3月のわずか4週間だけ採取できる糖度1.5%ほどの樹液を、薪を使ったボイラーで水分を蒸発させ、糖度66%まで煮詰めます。約60リットルの樹液からできるメープルシロップの量は、たったの1リットルほど。香り豊かなメープルシロップに仕上げるために、あえて火加減の調整が難しい薪焚きで煮詰めます。

「北海道メープルの森を通して伝えたいのは、地球を守り、森を守ること。何百年という森の時間の中では、私がお手伝いできる数十年はほんの一瞬です」

見つめているのは、「北海道メープルシロップ」という商品の先にある、未来の森の姿。豊かな森と健康なカエデを育てながら、できる限り自然に負荷をかけずに樹液の恵みをいただく、“メープルの森”という価値を創り出すこと。そして、その取り組みを環境保全や地域振興へとつなげていくこと。森の健康を維持するためには人の手による管理が欠かせないため、森と木を育てながらメープルシロップという収益を生み出す循環は、持続可能な仕組みでもあるのです。

北海道メープルシロップは、さらりとした口当たり。皆さまに、ぜひ体験していただきたいおいしさです。

北海道メープルのロゴに記されているのは、「The Nature is Yours.(自然はあなたのもの)」という言葉。4年目を迎えた今では、地元・当別の人たちや応援してくれる仲間がボランティアで森仕事を手伝ってくれたり、「絵本で読んだメープルシロップづくりを見てみたい」という親子がやってきたり。今年は、地元の小学生たちと一緒に森に入るプロジェクトも始まります。

マークさんが描く未来の森、そして森と人との関わり方に、年代や分野を超えた共感の輪が広がり続けています。

ディスカバリー北海道には、2026年に採取・製造し、「GAGNON」の店頭に5月から並び始めたばかりの北海道メープルシロップが登場します。マークさんに会えたら、ぜひ北海道メープルの森の話を聞いてみてくださいね。

※本記事の情報は、2026年5月のものです。

メープルシロップ専門店 GAGNON
住所:〒063-0002 北海道札幌市西区山の手2条1丁目4-23
TEL:011-622-8660
営業時間:11:00〜18:00
定休日:月・火曜日

Events

ディスカバリー北海道

ディスカバリー北海道

開催日時:2026年6月10日(水)~16日(火)
場所:大丸札幌店 地1階ほっぺタウン・8階レストラン街
マークさん入店日:6月10日(水)・13日(土) 両日共 10:00〜15:00(北海道メープルシロップは上記の2日間のみ、各日12本限定販売の予定)

北海道のおいしいものをもっと発見したい。もっと深掘りしたいとバイヤーたちが奔走。アンテナを貼りめぐらせ噂に耳を傾けそして見つけてきました!

※本イベントは終了しました。

企画取材:藤尾智美 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘
  1. 001
    菅野 裕隆 株式会社 菅野養蜂場
  2. 002
    藤井 信二 メムロピーナッツ株式会社
  3. 003
    岡崎 実央 アーティスト
  4. 004
    林家 きよ彦 落語家
  5. 005
    宮岸 蒼 札幌ファッションデザイン専門学校DOREME 学生
  6. 006
    澤田 怜那 北海道芸術デザイン専門学校 学生
  7. 007
    佐久間 穂菜美 おたる水族館 飼育員
  8. 008
    山田 真史 JAPAN AX PROJECT株式会社
  9. 009
    妹尾 大樹・萌子 ORITSURU
  10. 010
    小笠原 敏文 株式会社 五勝手屋本舗
  11. 011
    北山 カルルス イラストレーター
  12. 012
    高橋 秀寿 高橋工芸
  13. 013
    日名地 博花 Cado
  14. 014
    伊藤 沙菜 株式会社 Easy Peasy
  15. 015
    石川 朋佳 トヅキ合同会社
  16. 016
    佐藤 壮馬 美術家
  17. 017
    竹内 隆介 トピカ
  18. 018
    林田 直樹 Brift H SAPPORO
  19. 019
    中村 夏音 Kanonnohimo
  20. 020
    宮本 翼 PIZZERIA DEL CAPITANO
  21. 021
    安藝 元伸 安芸農園
  22. 022
    橘 結 アーティスト
  23. 023
    小林 啓太 株式会社パルコ
  24. 024
    伊勢 昇平 株式会社ブルーチーズドリーマー
  25. 025
    鈴木 聡 鈴木聡ヴァイオリン工房
  26. 026
    沼田 大資 株式会社フォーシーズンズ
  27. 027
    BOTAN 花屋
  28. 028
    竹花 利貴 日本清酒株式会社 杜氏
  29. 029
    今村 育子 札幌駅前通まちづくり株式会社
  30. 030
    荒川 雄生・桜 ボクツメ
  31. 031
    河野 理恵 Liaison
  32. 032
    中川 斐世利 株式会社京屋
  33. 033
    星野 恵 一般社団法人 相互支援団体かえりん
  34. 034
    山岡 千秋 こぶ志窯
  35. 035
    荒田 朝陽 アーティスト
  36. 036
    吉川 貫一 アーティスト
  37. 037
    長谷 有理子 長谷製菓株式会社
  38. 038
    マーク・ギャニオン GAGNON株式会社
  39. 039
    吉田 慎司 株式会社まちづくり山上
  40. 040
    鳥羽 直樹 GELATERIA torinosu
  41. 041
    石田 正哉 余市宇宙記念館