石田 正哉 余市宇宙記念館
航空宇宙の世界を次世代へつなぐ。元航空整備士
2026年7月29日(水)〜8月13日(木) に大丸札幌店で開催される『大丸宇宙基地』は、夏休み中の子どもたちが家族と一緒に、楽しみながら宇宙の世界に触れられるよう企画したイベントです。企画づくりにあたり、私たちスタッフが宇宙について学ぶためにご協力いただいたのが、余市宇宙記念館です。ここは、1992年に日本人科学者として初めてスペースシャトルに搭乗し、2000年には2度目の宇宙飛行を果たした余市町出身の毛利衛氏の偉業を記念して建てられた、宇宙や宇宙開発について学べる施設です。今回お話を伺ったのは、館内でガイドを務めるほか、小学1年生から大人までを対象にした「おもしろ宇宙教室」の講師として活動する石田正哉さん。元航空整備士として自動車や航空業界で培った経験を生かし、宇宙や航空分野の魅力をわかりやすく伝えながら、子どもたちの学ぶ意欲や「好き」という気持ちを育んでいます。「航空宇宙業界の後進を育てたい」という思いを胸に活動を続ける石田さんに話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 藤尾智美
石田 正哉 いしだ まさや2>
余市宇宙記念館 職員
東京都大田区出身、74歳。旧東京都立砧工業高等学校卒業後、旧東京都立大田高等職業訓練校 自動車整備科へ進学。本田技研工業株式会社で自動車整備士として勤務した後、旧国際航空大学校で航空整備士の資格を取得。読売新聞社、旧東亜国内航空で航空整備士として勤務し、旧北日本航空専門学校(余市町)や東北の学校で航空整備士教官を務める。現在は余市宇宙記念館でガイドや「おもしろ宇宙教室」の講師として活動。自動車整備士、航空整備士、航空整備士教官、電気工事士。
航空整備士の経験とものづくりの視点で
宇宙の魅力をわかりやすく伝える
「こちらにあるのは、2003年に打ち上げられた小惑星探査機『はやぶさ』初号機の模型です。初号機は小惑星に着陸してサンプルを採取し、2010年にオーストラリアのウーメラ砂漠へ帰還しました。日本の小惑星探査技術は、世界的にも高い評価を得ているんですよ」
私たち取材スタッフに余市宇宙記念館を案内してくれたのは、館内ガイドを務める石田正哉さん。小学1年生から大人までを対象にした「おもしろ宇宙教室」の講師としても活躍する記念館の職員です。
石田さんにうながされて天井を見上げると、そこに吊り下げられていたのはISS(International Space Station/国際宇宙ステーション)を1/20サイズで再現した模型。
「日の丸が付いている部分が、日本の実験棟『きぼう』です。資源が少ない日本に必要なのは、宇宙開発をはじめとした“ものづくり”の技術。宇宙開発にはみなさんの税金が使われていますから、もっと宇宙開発に興味を持っていただけたらうれしいです」
解説パネルと一緒に飾られているペーパークラフトからは、「宇宙の魅力やおもしろさを伝えたい!」という職員の皆さんの熱意が感じられるよう。
「館内のペーパークラフトは、すべて紙で自作しました。綿棒や穴あけカッターなど、身近な素材や道具も駆使して作っているんですよ」
パネルの説明だけでは想像しにくいスペースシャトルの構造も、立体のペーパークラフトがあることでぐっと理解しやすくなるから不思議。石田さんは、日本や世界で進む宇宙開発という壮大な世界を、一人ひとりの理解度に合わせてわかりやすく「翻訳」してくれる存在でもあります。
それもそのはず。現在74歳の石田さんは、自動車整備士、航空整備士、航空整備士教官、電気工事士などの資格を持ち、長年にわたり自動車産業や航空業界でものづくりに携わってきたスペシャリストなんです。
仕事選びも学び方も
すべては「好き」が原動力
東京都大田区下丸子で生まれ育った石田さんの人生を変えたのは、忘れもしない小学3年生のときの出来事でした。
「ものづくりの町、羽田空港にも近い工業地帯に住んでいました。自転車に乗れるようになった私は、『どこまで行けるだろう』と多摩川の土手を下っていったら羽田空港に着いたんです。フェンス越しに、生まれて初めて航空機を見た。人が乗っているのが見えたから手を振ったら、振り返してくれたんですよ」
巨大なエンジンが爆音を響かせながら、大きな機体が上昇する姿。その感動は、石田さんの心に深く刻まれました。
とはいえ、最初に就職したのはHonda。中学生の頃に本田宗一郎氏の著書を読み、自転車用補助エンジンから始まったものづくりの思想に感銘を受けた石田さんは、オートバイや自動車の世界に夢中になります。高校卒業後は旧東京都立大田高等職業訓練校自動車整備科へ進学し、自動車整備士の資格を取得して念願のHondaで働き始めます。
「次々と新車が売れる時代でした。本田宗一郎さんは、工場の現場にも視察にいらっしゃる。話を聞いて、『常に先を見ている、思っていたとおりの人だ』と感じました」
自動車整備をしながら、石田さんはふと子どもの頃に聞いた航空機のエンジン音を思い出します。その思いに突き動かされるように、働きながら通信制高校で学び直し、旧国際航空大学校へ進学して航空整備士の資格を取得します。
「整備士の資格取得の目処がつき、いざ就職しようと思ったら、第二次オイルショックで航空会社の求人がない。そこで見つけたのが読売新聞社の求人でした。新聞社の試験は難しいから、筆記試験じゃなく面接で頑張ろうと思ってね。ところが、面接室から見える格納庫の航空機を『何の機種だかわかるかい』と問われた際に、思い切り同業他社が保有している機種と間違えて答えてしまったんです。『それは他社の航空機だぞ』と言われてしまい……。顔を真っ赤にして謝ったら、それが印象に残ったのか、ものすごい倍率だったのに合格できました」
読売新聞社では、報道用ヘリコプターや航空機の整備を担当し、取材班とともに全国を飛び回る日々を送ります。そんなある日、再び石田さんの心を動かす求人を見つけました。
人の命を預かる仕事には
絶対に嘘が許されない
「東亜国内航空が、最新鋭のエアバスA300を導入するにあたり、航空整備士を40人募集している求人を見つけてしまったんです。すぐに履歴書を送りました」
幼い頃に憧れた航空機の整備士になるため、石田さんは厳しい訓練を乗り越え、ついに念願だった航空整備士として働き始めます。
「機体の大きさにドキドキしました。航空機の整備は何百人もの命を預かる仕事です。新聞社では、自分で整備した機体に自分も搭乗していたので、その責任がどれだけ重大なことかわかる。絶対に、ミスはできないと思いました」
整備完了のサインに込められているのは、「この機体は安全です」と自らの名前で保証する責任の重み。
「整備士に求められるのは、嘘をつかないことです」
すべては信頼の上に成り立つ仕事だからこそ、石田さんは日々の出来事を細かく日記へ書き綴るようになりました。いつ、誰と、何をしたのかを記録する習慣は、万が一に備えるため。石田さんが過去の出来事や関わった人の名前を、まるで昨日のことのようによどみなく語る姿に驚いていた私たち取材スタッフは、長年にわたって日記を書き続けていると聞いて思わず納得したのでした。
その後、大好きなスキーをしながら大型機の整備に携わるために、ニュージーランドへの移住に挑戦。しかし、1986年度に移民制度が変更されるという壁に直面し、現地で働く夢は叶わなかったといいます。そんなときに声がかかったのが、余市町に開校する旧北日本航空専門学校の教官職。
かつて航空機に心を奪われた少年は、やがて余市町で次世代の航空従事者を育てる立場となり、その縁は現在の余市宇宙記念館へとつながっています。
子どもの「好き」を引き出し
未来へ繋げる場でありたい
「子どもたちには、『宇宙好き?』『航空機好き?』って聞くんです」
オートバイや自動車、航空機が「好き」という気持ちに導かれるように人生を選び、厳しい訓練や勉強も、「好き」だからこそ乗り越えてきた石田さん。子どもたちと接するときに大切にしているのは、「好き」という気持ちを見つけることです。
宇宙や航空機が好きな子どもはもちろん、まだ興味の対象が見つかっていない子どもにも新たなきっかけがつくれるように、「おもしろ宇宙教室」や館内のイベントは石田さんが担当する「宇宙の謎教室」「航空関係」「ドローン教室」「電気教室」「ペーパークラフト教室」のほか、「ほしぞら教室」「キャンドル教室」「ジェルグラス教室」まで、間口を広げて用意されています。
「私が若い頃と比べて、航空宇宙の世界は想像以上の進歩を遂げました。『東京スカイツリー®』を手がけた大林組は、2050年を目標に宇宙エレベーターを建設する構想を発表しています。子どもたちが大人になる頃には、宇宙エレベーターが完成し、月には基地ができているでしょう。もしかすると火星にも基地があって、移り住む人がいる時代になっているかもしれません」
ものづくりの国だからこそ、これから目指したいのは後進たちの育成です。
「自動車産業も、航空宇宙産業も、鉄道産業もそう。子どもたちに“ものづくり”への興味を持ってもらい、私のように航空整備士を目指す人たちの道筋をつくっていきたい」
余市宇宙記念館のご協力のもと、スタッフ総出でネタ探しをした『大丸宇宙基地』企画には、私たちが記念館で驚いたおもしろ体験もご用意しています。この夏休みは、ぜひ余市宇宙記念館と大丸札幌店で、宇宙のおもしろさに触れてください。
※本記事の情報は、2026年5月のものです。
余市宇宙記念館
住所:〒046-0003 北海道余市郡余市町黒川町6-4 道の駅スペース・アップルよいち内
TEL:0135-21-2200
営業時間:9:00~17:00(最終入館は午後4時)
定休日:月曜日(月曜日が祝日の場合はその翌日)











































