百花の人
010

小笠原おがさわら 敏文としふみ 株式会社 五勝手屋本舗

五勝手屋羊羹という 立ち帰る場所があるから。 新しい挑戦ができる

百花POINT

あんこ好きのみなさん!今年もお待ちかねのイベントが近づいてまいりました。全国のあんこスイーツが大集結する『あんこぱらだいす。』は、5月28日(水) ~ 6月2日(月)に開催されます。このイベントには、五勝手屋羊羹でお馴染みの『五勝手屋本舗』さんも出展してくださいます。なんと、実演販売してくださるのは、年に数日しか味わえない五勝手屋ロール!1870年(明治3)を創業年に定めている『五勝手屋本舗』さんですが、初代がお菓子づくりを始めていたのはなんと江戸時代にまで遡るのだとか。場所は違っても、呉服店にルーツを持つ大丸松坂屋百貨店と同じく、歴史を守り、未来に繋いでいく立場や思いはきっと同じ。催事にも来場してくださる6代目社長・小笠原 敏文さんに話をお聞きするため、江差町の本店を訪ねました。

取材者:大丸札幌店 村田 大樹

PROFILE

小笠原 敏文 おがさわら としふみ

株式会社 五勝手屋本舗 代表取締役社長

東京農業大学卒業後、2000年に入社、2020年より現職。毎年12月に本店2階のギャラリーにお目見えする巨大ジオラマは、クリスマスの風物詩。趣味でコレクションした『department56』のジオラマで、自ら作り上げるミニチュアタウンは必見!

工場の作業は朝6:00から始まります。あんこと羊羹の工場では、五勝手屋羊羹を製造中。1日で計12,000本の丸缶羊羹が造られていました。

北前船の時代まで遡る
五勝手屋本舗のルーツ

疲れた時に口にしたくなる体に染み入るような甘さ。ふいに思い出して自分用に買ってしまう不思議な懐かしさ。丸缶からぐっと押し出した羊羹を、くるりと糸で結んで切りながら食べるひと手間が楽しい五勝手屋羊羹ファンも多いのでは?

『五勝手屋本舗』が本店を構える江差町を訪ねたのは4月の下旬。「江差の五月は江戸にもない」と謳われた歴史の気配を探しに「かもめ島」まで足を延ばすと、陸地と繋がる陸繋島(りくけいとう)の遊歩道沿いで見つけたのは北前船の係船(けいせん)跡。夕方の散策は、江戸時代から明治時代にかけてニシン漁で栄え、大阪と北海道を日本海回りで結ぶ北前船の交易によって本州の文化が伝えられた江差の繁栄を、時代を越えてリアルに感じる体験になりました。

「五勝手屋本舗の創業は、店の看板商品である五勝手屋羊羹が生まれた1870年(明治3)を創業年にしています」と教えてくれたのは、2020年に家業を継いだ小笠原敏文さん。北海道ではなかなか出会えない老舗6代目の社長です。

安土桃山時代から江戸時代をまたぐ1596年~1615年の慶長年間に祖先が移り住み、五花手(ごかって)地区で栽培に成功した豆を使って江戸時代からお菓子づくりを始めたのが『五勝手屋本舗』のルーツと言われています。当時のお菓子の材料には、江差に寄港した北前船が運んできた砂糖と寒天が使われていたそうです。

「五勝手屋羊羹は、昔から金時豆が使われてきました。だから、羊羹の色は小豆色ではなくて飴色です。金時豆特有の食感と、カラメル色の砂糖の味が生きた羊羹だと思います」と小笠原さんが言うとおり、五勝手屋羊羹の原料はなんと金時豆なんです!

五勝手屋羊羹誕生の年を創業年にした、店の魂ともいえる看板商品。歴史が古すぎるがゆえに、金時豆を使った理由は残念ながらわからないのだとか。小豆とはまったく異なる味わいこそが『五勝手屋本舗』の宝として今に続いています。

あんこを軸にした
新しい和菓子を表現

五勝手屋羊羹を製造する工場は、金時豆のあま~い香りに満ちていました。なんとも幸せな香りに迎えられ、思わず取材スタッフの顔がほころびます。工場長は餡練り作業の真っ最中。大きな釜の中を見下ろしながら、火を落とす仕上げのタイミングを見計らっていました。

驚いたのは、大量生産している工場とはいえ、想像以上に人の手作業が多いこと。粘度の高い水飴を取り出したり、練り上げた餡をバケツで運んだりする力仕事であっても、決して動きに無駄はなく、流れるように進む職人さんの作業の様子にほれぼれしてしまいます。

職人さんが球状に丸めて取り出したのは水飴。火にかけると苦みが出る水飴は、あんこが出来あがる直前に加えます。

工場見学の際に試食させてくださったのは、『あんこぱらだいす。』で実演販売をしてくださる五勝手屋ロール。焼く直前にメレンゲを加えたスフレ生地は、焼き上げてからもふるんふるんのふわっふわ。ほかほか温かな出来たてを口に含むと、粒感をほどよく残した小豆あんとシュワシュワはかなく溶ける生地がミルクセーキのように混ざり合い、口の中いっぱいに幸せな味が生まれました。これは出来たての一瞬しか体験できない、温かい和菓子の贅沢!

「新しい和菓子づくりに挑戦できるのは、丸缶羊羹という立ち帰る存在があるからこそ。お客さまには新しい味に驚いていただきながらも、昔ながらの五勝手屋羊羹の味を好きになってもらいたいという思いがあります」。面白くないから真似はしないと決めて、自分が好きなものだけを作ってきたと小笠原さんはふり返ります。

「焼く前のどらやきの生地を食べたらおいしそう!」。そんな発想から生まれたのが、五勝手屋ロール。混ぜたて、焼きたて、挟みたてでしか味わえない限定販売スイーツを、『あんこぱらだいす。』でお召し上がりください!

一人ひとりのお客さまを大切にした先で
地域に必要とされる存在になれたら

あちこちの電信柱やバス停で見かける五勝手屋本舗の看板や、営業している店が少ない休日でも店を目指して次々とやってくるお客さまの姿に、地域との関わりの深さが伺い知れます。

「大切にしたいのは、地元の一人ひとりのお客さま。その思いを積み重ねていった先で、地域に必要とされる存在になりたい。ならなければと思っています」。

昔の原料に使われていた「紅金時」の品種を地域の仲間と共に復活させ、栽培した豆で復刻版羊羹づくりにも取り組んできた小笠原さんに、故郷・江差に対する思いを訊ねると……。

「江差が好きだからいろんな事に取り組んできたと思っていたけれど。もしかしたら、自分が楽しみたい、自分が楽しい空間を作りたいからやっているのかなと、最近思うようになりました。満足してしまったら、何もしないのかもしれません」。その言葉に、老舗家業を継ぎ、地域に根ざして生きる人なのだと実感しました。

これから目指しているのは、江差まで足を運んでくださったお客さまを、今以上におもてなしするための場所づくりです。お客さまにとってのリビングや、別荘のような場を作ってみたいと思いを巡らせているのだとか。

「百貨店の催事は、本店を持っていく場だと思っています」と語る小笠原さんは、『あんこぱらだいす。』にもご来場してくださいます。本店の味、出来たてほかほかの和菓子をほお張る幸せを、この機会にご堪能ください!

定休は、正月元旦のみ。かつては定休日もあったそうですが、「お店に行ったら閉まっていた」というお客さまの声がやるせなく、思い切って年に1日だけの休みに切り替えたそうです。社長が店に立っていると、次々にご来店される顔見知りのお客さま。その様子を見ると、お気持ちが想像できる気がしました。

※本記事の情報は、2025年4月のものです。

株式会社 五勝手屋本舗
住所:〒043-0043 北海道桧山郡江差町字本町38番地
営業時間:8:00 〜 18:00
定休日:無休(元日を除く)
HP:https://gokatteya.co.jp/

Events

あんこぱらだいす。

開催期間:5月28日(水) ~ 6月2日(月)
場所:7階催事場

本店でも年間数日しか食べられない作りたての五勝手屋ロールを実演販売!

more
企画取材:村田 大樹 / 制作:有限会社3KG / ライター:布施 さおり / 写真:岡田 昌紘