百花の人
034

山岡やまおか 千秋ちあき こぶ志窯

3代かけて土探し。こぶ志窯が描く北海道の器づくり

百花POINT

これまで、大丸札幌店の催事で何度もご一緒させていただいている、こぶ志窯さん。北海道を代表する窯元として知られており、魅力は、なんといっても釉薬が描き出す色合いの美しさだと思います。大丸札幌店の催事で作品に出合った私は、その奥行きのある色彩にすっかり心を奪われ、我が家へ迎え入れました。その際に、店頭で偶然お会いしたのが3代目の山岡千秋さんです。優しくて楽しいお人柄にすっかりファンになってしまった私は、後日、母を誘ってこぶ志窯の陶芸体験に訪れたほど。この、こぶ志窯さんが、4月8日(水)〜13日(月)に開催される「HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27」に出店してくださることに!催事を前に伺った今回の取材で印象に残ったのは、先代が築き上げてきた伝統を大切に受け継ぎながらも、自らの“こぶ志焼”を確立しようとする真摯なお姿でした。

取材者:大丸札幌店 梅村樹李

PROFILE

山岡 千秋 やまおか ちあき

こぶ志窯(こぶしがま)代表取締役

58歳。名古屋工業大学卒業後、多治見市立陶磁器意匠研究所修了。1946年に岩見沢市上志文に「こぶ志窯」を開いた祖父の初代・三秋(みあき)さん、父の2代目・憬(さとり)さんに続く3代目として窯を受け継ぐ。

見つけてきた原料もプラスする
こぶ志窯の焼き物づくり

深い海や天の川銀河のように美しい、海鼠釉(なまこゆう)の藍色。満開のラベンダー畑のような玉虫釉の藤色や、鮮やかな夕日を思わせる、辰砂釉(しんしゃゆう)の紅色。早朝の草原と森の景色の記憶が蘇る、緑釉の萌黄色。

岩見沢市の窯元・こぶ志窯の作品は、重ねがけした釉薬が生み出す繊細で深みのある表情と、鮮やかで美しく溶け合う色あいが魅力です。

「北海道でレンガ以外の焼き物産業が発展しなかったのは、器づくりに向く粘土が少なかったからです。うちの窯は、取ってきたさまざまな粘土や岩石を焼いて、『溶けたものは釉薬に向く』『溶けないものは素地(きじ)に向く』という考えのもと、土や釉薬の原料探しにも取り組んできました」

そう教えてくれたのは、こぶ志窯3代目の山岡千秋さんです。

こぶ志窯は、岩見沢で1946年から続く、北海道を代表する窯元です。粘土加工の機械化以外のすべてを手仕事でつくる器は、どれもやさしく手に馴染み、普段使いできる強度と価格帯を備えています。色の組み合わせによって食卓の印象が変わる、色や形の豊かなバリエーションも魅力のひとつ。

代表する焼き物の産地がない北海道は、本州のように粘土屋や釉薬屋といった分業制や専門家がいない環境です。こぶ志窯の特徴は、成形、窯焼き、窯のメンテナンスや修理に至るまで、焼き物に関わるすべての工程を自ら担っていること。さらには、焼き物に使える土や釉薬の原料を探して特性を見つけ出し、焼き物づくりの中に出来る範囲で盛り込みながら、“北海道のうつわづくり”と向き合っていることです。

しかし、ひと言で“原料探し”といっても、見つけて終わる単純なものではありません。

北海道の器づくりを支えた
3代にわたる理系の視点

山岡さんが案内してくださった原料庫には、北海道各地の名前が貼られた原土が並んでいました。これらの原土は手で砕いた後に、「湿式粉砕」と呼ばれる手法でさらに微粉砕。試験用の原料づくりだけで、1年以上を要するそうです。

原料づくりの後に行うのが配合試験。研究室には、3つの原料の配合比を変えて検証する三角座標の記録や、セーゲル式という釉薬調合の計算式で算出された調合データ、その配合で焼き上げたテストピースが積まれていました。試験の結果使えるようになった原料は、気の遠くなるような試験の積み重ねから生まれた、ほんのわずかな“答え”。

こぶ志窯を代表する海鼠釉に使用する灰釉、玉虫釉、天目釉、黒釉といった釉色を構成するいくつもの成分の一部に、探し出した原料が盛り込まれているそうです。

「陶芸というと、ろくろを回して形をつくるイメージがあるかもしれませんが、焼き物としての全工程を考えると、釉薬や粘土といった材料づくりが全工程の半分以上を占めているともいえますね」

父の憬さんが釉薬の調合比を考え、山岡さんがその試験を担う。親子二人三脚で10年以上にわたって続けてきた原料探しと釉薬の試験は、こぶ志窯にとってかけがえのない積み重ねです。「“ない”から“探そう”」という選択は、3代の時間をかけて、窯の大きな価値となりました。

釉薬の発色により、電気窯とガス窯を使い分けています。電気窯で焼く場合は、約22時間かけて温度を1,230度まで上げ、その後、4日ほどかけてゆっくりと冷却。釉薬を溶かし、素地をしっかりと焼き締めていくための重要な工程です。

作業場を案内していただいて印象的だったのは、こぶ志窯のものづくりが、いわゆる“アート”の発想からではなく、理系的な視点に支えられていることでした。それもそのはず。山岡さんは工学部出身。初代の三秋さんは、旧北海道工業試験場で火山灰の研究などに携わった技術者であり、2代目の憬さんも京都で、当時、最先端だった釉薬の理論を学んだ経歴の持ち主。

その視点は、作業場の随所に表れています。人もモノも動かしやすい配置、無駄な動きを生まない動線、用途ごとに整理された道具類。いくつもある作業工程が同時進行する作業場で、効率よく作業を進めるための、細部まで考え抜かれた製造ラインが組まれていました。

効率を追い求めるのは、より多くの人に、普段づかいできる器を届けるため。こぶ志窯のものづくりは、暮らしに寄り添う器のための、合理性の上に成り立っていました。

偶然にも取材当日は、大丸札幌店の梅村がプライベートで陶芸体験に訪れた際に手づくりした器が焼き上がる日でした。「山岡さんは、魚皿のちょっととぼけた口元や、涙のような胸ビレ、自分の指あとでゆがませた背びれなど、予定調和ではないデザインがいいねと褒めてくださいました」。そう教えてくれた梅村は、出来上がりに大満足の様子。焼き上がった魚の皿と枝豆の箸置きを、自分で電気窯から取り出させていただきました。

手作りで量産する技術が
普段づかいの器を実現

「気取らないものをつくること。粘土加工の機械化以外はすべて手仕事で続けること。普段づかいできる食器を、手の届く価格で届けること」

食卓を囲んでいた際、祖父に伝えられたこの言葉を今でも大切にしていると山岡さんは言います。

「使い続けて食器が欠けてしまっても、買い足せるくらいの値段でないと普段づかいはできません。食器棚に並んでいたら、つい手が伸びてしまう食器が、よい器だと思っています」

こぶ志の食器の価格帯は、1,000円台から3,000円台が中心。話を聞くほどに、その価格以上の価値の高さに驚かされます。本来であれば、手間のかかる手作りと数をつくる量産は両立しにくく、量がつくれない分だけ価格は高くなりがちです。それでも、こぶ志窯がこの手頃な価格を実現できるのは、器を量産できるほど効率よくつくれる山岡さんの“技術力”の高さがあってこそ。

「倍のスピードで作れば、価格は半分にできます。そのためには、早く正確につくる技術が必要です。売れるためにはよいものをつくらなくてはならないし、技術がないとよいものはつくれない。でも、売れないと技術は上がらない。そういうスパイラルがあります。私の場合、技術は後からついてきたと感じます」

「今では頭で別のことを考えていても、体が勝手に動きます」と、ろくろを回しながら山岡さんは言います。とんぼで器の径と深さを測りながら、コテで揃えて成形し、飲み口をなめらかに整えるために鹿の革で仕上げ。手で触れる回数を減らすほど、仕上げのスピードは上がります。

そう語る山岡さんは、特注品から百個単位のオーダーまで、さまざまな要望に応えてきました。それらの経験一つひとつの積み重なりが、気づけば技術として身についていたといいます。

だからこそ、大切にしているのはお客さまの声。

「大丸札幌店の催事は、お客さまの需要を直接お聞きできる貴重な機会です。前回の催事では、カフェオレカップより大きいサイズが欲しいという声を、1週間で4組からいただきました。次の催事では、大きめのカフェオレカップも持っていきます。手作りのよいところは、サイズ違いが簡単に作れること。お客さまが探す商品は、市販品にないものが多いから」

今、3代目として目指しているのは、北海道の器を広く知ってもらうこと。そして、自身の技術を次の世代へとつないでいくこと。さらなる壮大な夢は、見つけ出した原料だけで釉薬を作り出し、すべて北海道産の原料で焼き物を作ること。

取材当日にアルバイトとしてろくろ場の作業を手伝っていたのは、北海道教育大学岩見沢校で、まちづくりを学んでいる学生さんでした。

取材に伺った日は、北海道教育大学岩見沢校の学生さんがアルバイトとして作業をお手伝い。山岡さんのそばで手を動かす姿からは、ものづくりを体感しながら学ぶ様子が伝わってきました。

「変わったアルバイトに興味を持ってくれる学生さんは、みんないい子だよ」と、山岡さんと奥さまのみどりさんはにっこりと目を細めます。

「HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27」で山岡さんに出会ったら、ぜひ北海道の焼き物について尋ねてみてください。きっと、北海道の器の魅力と奥深さに引き込まれてしまうはずです。

岩見沢にあるこぶ志窯は、「こぶ志陶芸館」と、こぶ志焼を製作している「工房」からなっています。陶芸館1Fでは、マグカップや茶碗、皿、花瓶などさまざまな製品を販売。2Fには、こぶ志窯の歴史や成り立ち、3代にわたる作品が展示されています。

※本記事の情報は、2026年3月のものです。

株式会社こぶ志陶苑 こぶ志窯
住所:〒068-0005 北海道岩見沢市5条東13丁目
TEL:0126-22-4303
営業時間:10:00~18:00 / 11:00〜16:00(日曜日、冬期間)入館無料
定休日:水曜日、年末・年始
HP:https://www.kobushiyaki.jp/(※別サイトに遷移します)

Events

HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27

HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27

開催日時:4月8日(水)〜13日(月)
開催時間:10:00〜19:00(最終日は18時閉場)
会場:大丸札幌店 7階催事場

北海道に育まれた感性と地域の素材を活かし、真摯にものづくりに取り組むヒトモノコトが集まりました。こだわりとおいしさにあふれるフード。作家たちのオリジナリティが冴えるクラフト。作る人の思いにふれながら、北海道の感動のものづくりに出会ってみませんか。

※本イベントは終了しました。

企画取材:梅村樹李 / 制作:3KG / ライター:布施さおり / 写真:岡田昌紘
  1. 001
    菅野 裕隆 株式会社 菅野養蜂場
  2. 002
    藤井 信二 メムロピーナッツ株式会社
  3. 003
    岡崎 実央 アーティスト
  4. 004
    林家 きよ彦 落語家
  5. 005
    宮岸 蒼 札幌ファッションデザイン専門学校DOREME 学生
  6. 006
    澤田 怜那 北海道芸術デザイン専門学校 学生
  7. 007
    佐久間 穂菜美 おたる水族館 飼育員
  8. 008
    山田 真史 JAPAN AX PROJECT株式会社
  9. 009
    妹尾 大樹・萌子 ORITSURU
  10. 010
    小笠原 敏文 株式会社 五勝手屋本舗
  11. 011
    北山 カルルス イラストレーター
  12. 012
    高橋 秀寿 高橋工芸
  13. 013
    日名地 博花 Cado
  14. 014
    伊藤 沙菜 株式会社 Easy Peasy
  15. 015
    石川 朋佳 トヅキ合同会社
  16. 016
    佐藤 壮馬 美術家
  17. 017
    竹内 隆介 トピカ
  18. 018
    林田 直樹 Brift H SAPPORO
  19. 019
    中村 夏音 Kanonnohimo
  20. 020
    宮本 翼 PIZZERIA DEL CAPITANO
  21. 021
    安藝 元伸 安芸農園
  22. 022
    橘 結 アーティスト
  23. 023
    小林 啓太 株式会社パルコ
  24. 024
    伊勢 昇平 株式会社ブルーチーズドリーマー
  25. 025
    鈴木 聡 鈴木聡ヴァイオリン工房
  26. 026
    沼田 大資 株式会社フォーシーズンズ
  27. 027
    BOTAN 花屋
  28. 028
    竹花 利貴 日本清酒株式会社 杜氏
  29. 029
    今村 育子 札幌駅前通まちづくり株式会社
  30. 030
    荒川 雄生・桜 ボクツメ
  31. 031
    河野 理恵 Liaison
  32. 032
    中川 斐世利 株式会社京屋
  33. 033
    星野 恵 一般社団法人 相互支援団体かえりん
  34. 034
    山岡 千秋 こぶ志窯
  35. 035
    荒田 朝陽 アーティスト
  36. 036
    吉川 貫一 アーティスト
  37. 037
    長谷 有理子 長谷製菓株式会社
  38. 038
    マーク・ギャニオン GAGNON株式会社
  39. 039
    吉田 慎司 株式会社まちづくり山上
  40. 040
    鳥羽 直樹 GELATERIA torinosu