山岡 千秋 こぶ志窯
3代かけて土探し。こぶ志窯が描く北海道の器づくり
これまで、大丸札幌店の催事で何度もご一緒させていただいている、こぶ志窯さん。北海道を代表する窯元として知られており、魅力は、なんといっても釉薬が描き出す色合いの美しさだと思います。大丸札幌店の催事で作品に出合った私は、その奥行きのある色彩にすっかり心を奪われ、我が家へ迎え入れました。その際に、店頭で偶然お会いしたのが3代目の山岡千秋さんです。優しくて楽しいお人柄にすっかりファンになってしまった私は、後日、母を誘ってこぶ志窯の陶芸体験に訪れたほど。この、こぶ志窯さんが、4月8日(水)〜13日(月)に開催される「HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27」に出店してくださることに!催事を前に伺った今回の取材で印象に残ったのは、先代が築き上げてきた伝統を大切に受け継ぎながらも、自らの“こぶ志焼”を確立しようとする真摯なお姿でした。
取材者:大丸札幌店 梅村樹李
山岡 千秋 やまおか ちあき2>
こぶ志窯(こぶしがま)代表取締役
58歳。名古屋工業大学卒業後、多治見市立陶磁器意匠研究所修了。1946年に岩見沢市上志文に「こぶ志窯」を開いた祖父の初代・三秋(みあき)さん、父の2代目・憬(さとり)さんに続く3代目として窯を受け継ぐ。
見つけてきた原料もプラスする
こぶ志窯の焼き物づくり
深い海や天の川銀河のように美しい、海鼠釉(なまこゆう)の藍色。満開のラベンダー畑のような玉虫釉の藤色や、鮮やかな夕日を思わせる、辰砂釉(しんしゃゆう)の紅色。早朝の草原と森の景色の記憶が蘇る、緑釉の萌黄色。
岩見沢市の窯元・こぶ志窯の作品は、重ねがけした釉薬が生み出す繊細で深みのある表情と、鮮やかで美しく溶け合う色あいが魅力です。
「北海道でレンガ以外の焼き物産業が発展しなかったのは、器づくりに向く粘土が少なかったからです。うちの窯は、取ってきたさまざまな粘土や岩石を焼いて、『溶けたものは釉薬に向く』『溶けないものは素地(きじ)に向く』という考えのもと、土や釉薬の原料探しにも取り組んできました」
そう教えてくれたのは、こぶ志窯3代目の山岡千秋さんです。
こぶ志窯は、岩見沢で1946年から続く、北海道を代表する窯元です。粘土加工の機械化以外のすべてを手仕事でつくる器は、どれもやさしく手に馴染み、普段使いできる強度と価格帯を備えています。色の組み合わせによって食卓の印象が変わる、色や形の豊かなバリエーションも魅力のひとつ。
代表する焼き物の産地がない北海道は、本州のように粘土屋や釉薬屋といった分業制や専門家がいない環境です。こぶ志窯の特徴は、成形、窯焼き、窯のメンテナンスや修理に至るまで、焼き物に関わるすべての工程を自ら担っていること。さらには、焼き物に使える土や釉薬の原料を探して特性を見つけ出し、焼き物づくりの中に出来る範囲で盛り込みながら、“北海道のうつわづくり”と向き合っていることです。
しかし、ひと言で“原料探し”といっても、見つけて終わる単純なものではありません。
北海道の器づくりを支えた
3代にわたる理系の視点
山岡さんが案内してくださった原料庫には、北海道各地の名前が貼られた原土が並んでいました。これらの原土は手で砕いた後に、「湿式粉砕」と呼ばれる手法でさらに微粉砕。試験用の原料づくりだけで、1年以上を要するそうです。
原料づくりの後に行うのが配合試験。研究室には、3つの原料の配合比を変えて検証する三角座標の記録や、セーゲル式という釉薬調合の計算式で算出された調合データ、その配合で焼き上げたテストピースが積まれていました。試験の結果使えるようになった原料は、気の遠くなるような試験の積み重ねから生まれた、ほんのわずかな“答え”。
こぶ志窯を代表する海鼠釉に使用する灰釉、玉虫釉、天目釉、黒釉といった釉色を構成するいくつもの成分の一部に、探し出した原料が盛り込まれているそうです。
「陶芸というと、ろくろを回して形をつくるイメージがあるかもしれませんが、焼き物としての全工程を考えると、釉薬や粘土といった材料づくりが全工程の半分以上を占めているともいえますね」
父の憬さんが釉薬の調合比を考え、山岡さんがその試験を担う。親子二人三脚で10年以上にわたって続けてきた原料探しと釉薬の試験は、こぶ志窯にとってかけがえのない積み重ねです。「“ない”から“探そう”」という選択は、3代の時間をかけて、窯の大きな価値となりました。
作業場を案内していただいて印象的だったのは、こぶ志窯のものづくりが、いわゆる“アート”の発想からではなく、理系的な視点に支えられていることでした。それもそのはず。山岡さんは工学部出身。初代の三秋さんは、旧北海道工業試験場で火山灰の研究などに携わった技術者であり、2代目の憬さんも京都で、当時、最先端だった釉薬の理論を学んだ経歴の持ち主。
その視点は、作業場の随所に表れています。人もモノも動かしやすい配置、無駄な動きを生まない動線、用途ごとに整理された道具類。いくつもある作業工程が同時進行する作業場で、効率よく作業を進めるための、細部まで考え抜かれた製造ラインが組まれていました。
効率を追い求めるのは、より多くの人に、普段づかいできる器を届けるため。こぶ志窯のものづくりは、暮らしに寄り添う器のための、合理性の上に成り立っていました。
手作りで量産する技術が
普段づかいの器を実現
「気取らないものをつくること。粘土加工の機械化以外はすべて手仕事で続けること。普段づかいできる食器を、手の届く価格で届けること」
食卓を囲んでいた際、祖父に伝えられたこの言葉を今でも大切にしていると山岡さんは言います。
「使い続けて食器が欠けてしまっても、買い足せるくらいの値段でないと普段づかいはできません。食器棚に並んでいたら、つい手が伸びてしまう食器が、よい器だと思っています」
こぶ志の食器の価格帯は、1,000円台から3,000円台が中心。話を聞くほどに、その価格以上の価値の高さに驚かされます。本来であれば、手間のかかる手作りと数をつくる量産は両立しにくく、量がつくれない分だけ価格は高くなりがちです。それでも、こぶ志窯がこの手頃な価格を実現できるのは、器を量産できるほど効率よくつくれる山岡さんの“技術力”の高さがあってこそ。
「倍のスピードで作れば、価格は半分にできます。そのためには、早く正確につくる技術が必要です。売れるためにはよいものをつくらなくてはならないし、技術がないとよいものはつくれない。でも、売れないと技術は上がらない。そういうスパイラルがあります。私の場合、技術は後からついてきたと感じます」
そう語る山岡さんは、特注品から百個単位のオーダーまで、さまざまな要望に応えてきました。それらの経験一つひとつの積み重なりが、気づけば技術として身についていたといいます。
だからこそ、大切にしているのはお客さまの声。
「大丸札幌店の催事は、お客さまの需要を直接お聞きできる貴重な機会です。前回の催事では、カフェオレカップより大きいサイズが欲しいという声を、1週間で4組からいただきました。次の催事では、大きめのカフェオレカップも持っていきます。手作りのよいところは、サイズ違いが簡単に作れること。お客さまが探す商品は、市販品にないものが多いから」
今、3代目として目指しているのは、北海道の器を広く知ってもらうこと。そして、自身の技術を次の世代へとつないでいくこと。さらなる壮大な夢は、見つけ出した原料だけで釉薬を作り出し、すべて北海道産の原料で焼き物を作ること。
取材に伺った日は、北海道教育大学岩見沢校の学生さんがアルバイトとして作業をお手伝い。山岡さんのそばで手を動かす姿からは、ものづくりを体感しながら学ぶ様子が伝わってきました。
「変わったアルバイトに興味を持ってくれる学生さんは、みんないい子だよ」と、山岡さんと奥さまのみどりさんはにっこりと目を細めます。
「HOKKAIDO いいモノいいコトマルシェ Vol.27」で山岡さんに出会ったら、ぜひ北海道の焼き物について尋ねてみてください。きっと、北海道の器の魅力と奥深さに引き込まれてしまうはずです。
※本記事の情報は、2026年3月のものです。
株式会社こぶ志陶苑 こぶ志窯
住所:〒068-0005 北海道岩見沢市5条東13丁目
TEL:0126-22-4303
営業時間:10:00~18:00 / 11:00〜16:00(日曜日、冬期間)入館無料
定休日:水曜日、年末・年始
HP:https://www.kobushiyaki.jp/(※別サイトに遷移します)




































