2023.04.28

ぼくも嫉妬するほど神戸の人に愛される。パルミエはMOTOMACHI CAKEの愛のカタチ。

元町ケーキ

目次

ぼくも嫉妬するほど神戸の人に愛される。パルミエはMOTOMACHI CAKEの愛のカタチ。

家族の時間の中にあるお菓子

「フランスの、ちょっとリッチな焼き菓子ですね。結構しっかりキャラメリゼしてるので、ちょっとコクがあると思います。創業者のおじいさんおばあさん、2代目夫妻も大事にしてたお菓子で、お客さんからも『今は誰が担当してんねや〜』なんていわれてたのを覚えてます」

MOTOMACHI CAKE当主の大西達也さんが、3代目の継承者として愛を語ってくださるのはハート型の焼き菓子「パルミエ」。

77年前の創業時から、MOTOMACHI CAKEでつくり継がれている焼き菓子、パルミエ
77年前の創業時から、MOTOMACHI CAKEでつくり継がれている焼き菓子、パルミエ

パイ生地に砂糖を織り込み、それを低温で焼いて、最後にしっかりと色がつくまでキャラメリゼする。シンプルゆえに、とても難しい。「食感が変わっちゃうんですよ。上手にできたら甘ったるくならず、軽くてコクがあって美味しいんです」

手間はかかるけれど、創業のころからあるお菓子。先代の時代からずっとパルミエづくりを担当していた79歳の職人さんが昨年引退されて、今は、大西さん自身が改めて気を引き締めながら向き合っています。

MOTOMACHI CAKE3代目当主の大西達也さん
MOTOMACHI CAKE3代目当主の大西達也さん

「家族のケーキと一緒にこれを買って、コートやジャケットのポケットに忍ばせたままクローゼットにしまっておいて、子どもにバレないようにチビチビ食べてたって。そんな話もあるんですよ」

いつかお客さんから聞いた、パルミエと家族の心あたたまるエピソード。

「常連さんの話を聞いていると、ほんと、ここのお菓子は家族の時間の中、日常の中にあるんだなぁとしみじみ実感しますね」

パイ

お客さんの愛を守り継ぎたい

MOTOMACHI CAKEのお菓子は、とにかく素朴で、食べたあとにどこか気持ちがホッとする。昭和を知らない今の20代たちも、「懐かしい」と表現するというのだから面白い。

「創業のころは、今と違って、マーガリンや乳化剤を使うこともない。本当にやりにくいものばっかりつくってたんやな、と頭が下がります。若いときはね、ちょっと変えたくなったりするじゃないですか。でも、やっぱり違うものになるんですよ。ホッとする、あの感じがなくなっちゃうんです」

MOTOMACHI CAKE
「2代目の考え方で、4人家族で1000円で、日常的に食べてもらいたいという思いがありました」。時代の変化、材料の高騰などでそれもなかなか難しくなってきた

先代からは、好きなようにしたらいいとバトンを受け継いだけれど、たやすくそうはいかないと大西さんはいいます。

「ここはもうね、神戸の人の店なんですよ」

たとえば、道具を変える、あたらしい機械を導入する、生クリームを冷やしながらつくる。オーナーとして商品をより良くしようと工夫したり少しだけ変化を加えると、、、お客さんの反応はとても敏感。

「それが、めちゃくちゃ鋭くて。だから、今ある美味しさを未来に繋いでいくというのが、3代目である自分の大事な役割なのかなと思っています」

先代の時代からずっと使い続けられている道具や時代ものの機械。 大西さん
先代の時代からずっと使い続けられている道具や時代ものの機械。「もっといいものはあるんですけど、変えたら同じ味にならない気がして」と、愛おしむ大西さん

神戸の、街の人にとってのMOTOMACHI CAKE。厳しさの中にある、その愛の深さを何より大切にしたい。大西さんはその愛に抗うことなく誠実に、身を委ねようと決めているようです。

冷蔵ショウケースのない時代から

とはいえ「昔のまま」の記録が、レシピとして綿密に書き残されているわけではありません。これぞ、職人の世界。

「創業のころからつくり続けているパルミエとラムケーキは、まだ冷蔵ショウケースがない時代からの商品ですね」

パイ生地を切る パイ生地を並べる パイ生地を焼く準備
昔ながらのやり方で、パイを作る。麺棒で叩いてのばすバターの加減や砂糖のご機嫌、いいあんばいまで寝かすこと。ほんの少しのことで差が出る

創業当時、戦後まもない77年前というと、冷蔵庫がないどころか、氷さえなかなか手に入らない時代です。
当時、そんな時代背景で、どうやっていい状態につくりあげていたのだろうーーと、思いを馳せることが何度もあるのだと大西さんはいいます。

パイをオーブンで焼く パイの焼き上がりを確認する大西さん
「当時の記録って、ないんですよね」。
大西さんは、日々お菓子をつくりながら初代の思いと対話しているのかもしれません

「戦後、北野の粗大ゴミから拾ったオーブンで食パンとシュークリームを焼いて、リヤカーで花隈界隈を売り歩いてたのがはじまりだと聞いています。そんな創業者の、ほんとうに美味しいものをつくりたいという気持ち、バイタリティには、計り知れないものがありますね」

文字通り、何もないところから生み出されたクリエイティブと、そのバイタリティ。令和の今、それを想像することすら難しい。

焼き上がったパイを剥がす

「アップルパイなんかも、1日何個じゃなくて、何十台と焼いてたといいますからね。クーラーもない時代に、パイ生地をどうやって折ってたのかって聞くと、朝早ぅから、涼しい間にやってたんやとか、大理石の上に氷置いて冷やしてやってたとか、ね」

時を巻き戻すことはできないし、きっと、それで同じ美味しさが再現できるわけではありません。キャリアを重ねるなかで、大西さんは自分なりに少しずついろいろなことを解決してきました。そして、やっとだいぶんわかってきたのかな、といいます。

ハートの形が笑顔に見えてくることがある、という大西さん。
ハートの形が笑顔に見えてくることがある、という大西さん。
「でも、うまくいかないことがあると、ちょっと悪い顔に見えてきたりしてね」

「今はいい状態で仕上がってると思う。できることなら、創業者に食べてみてもらいたいかな」

パルミエは、ハートの形。神戸のまちの人たちからMOTOMACHI CAKEの「ホッとする素朴な美味しさ」を預かる大西さんにとっては、日々向き合うたびに背筋が伸びる、大切な大切なお菓子なのです。

MOTOMACHI CAKE

【神戸スイーツ ノオト/MOTOMACHI CAKE】 終戦まもなく、初代がリヤカーをひき、花隈界隈でシュークリームを売り歩いたのが、MOTOMACHI CAKEの始まり。「子どもを想う母親のおやつ菓子」をコンセプトに、創業者が神戸元町に店を構えたのは1946(昭和21)年5月。当時は希少だったバターを使ったパイやバタークリームを用いたケーキが、今も変わらず神戸の人々に愛され続けています。看板商品の「ざくろ」をはじめ、世代を超えて親しまれる、シンプルな素材を丁寧に仕上げた洋菓子が人気です。2006年に当主の大西達也さんが3代目を継承、2008年には本店をリニューアル。現在は芦屋打出店・大丸神戸店を含めた3店舗を構えています。

MOTOMACHI CAKE

〈MOTOMACHI CAKE〉

パルミエ(2枚入り) 税込310円
パルミエ(14枚入り) 税込2,600円

大丸神戸店 地1階 洋菓子売場

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